ala Times articles

ala Times 特集記事

高橋正徳<演出家>×秋之桜子<脚本家>

2026 年 11 月 01 日 (日)


来年90周年を迎える、文学座の記念公演第一弾『みつ豆』がアーラに登場。女優や声優(山像かおり)としても知られる気鋭の脚本家・秋之桜子と演出家・高橋正徳の名コンビでおくる昭和のホーム・ドラマに期待が高まる。

1937(昭和12)年の創立以来、舞台を通して人々の営みや時代の記憶を描き続けてきた文学座にとって節目となる注目の公演ですね。

高橋 だからこそ、この企画は秋之さんにお願いしたいと思いました。彼女と組むのは今回で10本目。凄くアングラ的な作品もあれば、子どもミュージカルから大地真央さん主演のテレビ・ドラマを舞台化した『最高のオバハン 中島ハルコ』の台本まで、これまで幅広いジャンルを手掛けていて、アイデアが豊富で作風も常に新鮮。何より台詞に文学性があって“強い”。カジュアルに言葉を消費しがちな現代作家が多い中、彼女が書くものは口語でありながら舞台上でちゃんと対話して人間関係を変化させる。しかも関西人らしくそこに“笑い”もある…と、実に文学座向きなのです。

秋之 やりたかったのは言葉によって紡いでいく家庭劇。特に何かキャッチーな動きや派手な踊りなどがある作品ではないので、それがちゃんとできる役者となるとやはり文学座がいい。今回とても信頼できるメンバーを揃えていただいたので、心配とか一切なくて自由に書くことができました。

なぜ戦後30年にあたる1975(昭和50)年という時代が選ばれたのですか?

高橋 2024年に秋之さんの演劇プロデュース集団「西瓜糖」の『かえる』を演出しました。終戦間近の葉山を舞台にした家庭劇で、歴史や人間のドラマとして手応えを感じたのがひとつ。私は1978年生まれですが、今の自分にとって30年程前の出来事といえば阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件のあった頃でそれほど大昔という感覚がないので、きっと昭和50年当時の大人たちにとっての終戦もそうだったんじゃないかなって思うんです。だからこそ、豊かさの裏のどこかに世の中が隠している戦後の“歪み”のようなものがあったのではないかと。

秋之 1972年の「あさま山荘事件」以降、学生運動などが急速に終息して、既にこの頃には社会全体が少し落ち着いていたというか、高度経済成長を果たした日本人がふと立ち止まって、もう一度あの戦争と向き合うことができた時代。その頃の、どこか抜けていて愛らしいごく普通の家族を描きたかった。

舞台装置の構成とその使い方がユニークですね。廊下によって隔てられた2つの部屋(ダイニングとリビング)を3つの家族(岡崎家・栗木家・榊原家)で共有して、場面ごとに同じ場所が別の家族の居場所になる。時に、現実にはそこに居ないはずのお隣の家族とリンクしてお互いに影響し合ったり、隣で次の場面の準備が始まったり。特に第一幕の終わりは急展開でそれぞれ同時進行なのでステージ上は、まるで映画のモンタージュみたいになるのでは?

秋之 かもしれません(笑)。話と一緒に登場人物の気持ちも途切れないでずっと続いていくのが好きなのです。基本的に演出家を信頼してお任せするタイプなので、私もどんなふうになるのか楽しみです!

高橋 秋之さんの場合は設定がかなり緻密に作り込まれているので手がかりが多く、そういう意味では作りやすいのですが、まあ書いてあるレシピ通りにやっても面白くないので、現場で俳優さんも交えて色を付けながら立ち上げていくのが醍醐味です。

タイプの違う3つの家族の関係性が面白いです。

秋之 私の母が三姉妹で、幼い頃にそのやりとりを見ていたのがいろいろ元ネタになっています…「父ちゃま」「姉ちゃま」といった呼び方もそこから。祖母もよく戦時中の話をしてくれましたし。それと戦後はいろんな事情を抱えた人がいっぱいいて、家族のかたちも様々で親類でもない人が同居していたり、行き場のない人を受け入れる懐の深さがあったと思うのです。

高橋 古き良き昭和の大らかさの一方で、マンション暮らしや核家族化も進んでいて、それらが混在し共存しているのもあの時代の魅力。様々な価値観が微妙にぶつかり合うのもいい。

高校生のカオルや大学生のサトルなど、若い世代の大胆な行動が物語を動かしていく感じも素敵です。あと、三河屋のケンちゃんや風変わりな女性(長峰)が重要な役どころとしてしっかり絡んでくるところも。

秋之 ケンちゃんとサトルくんが好きだから、初稿ではついそのシーンが長くなってしまい…。

高橋 長峰さんのモノローグもね(笑)。

秋之 自分も役者のひとりなので、どの役もひとつひとつ大切に書いています。演じ手が自分の役に愛着を持ってくれたら、そこから思わぬアイデアが生まれたりしますから。

“戦争”が背景にあるドラマにありがちな「悲しみを乗り越えて」とか「あの時の苦労があって現在がある」みたいなメッセージを前面に打ち出していないのも素晴らしいと思います。

秋之 私も観客として「これがわかんなきゃダメ」みたいな作品は苦手。どの人物に自分を重ねて観るかによって話の受け止め方も違ってくるし、お客さんが各々でメッセージをみつけてもらえますように。

高橋 同じ家族の中でもそれぞれ見ているものは違う。ある大きな出来事をきっかけに、お互いに想いを一度クリアにした上で、再び家族とどう向き合うか、そのかたちがどう修復され治癒されるのかを見守っていただけたら嬉しいです。

取材/東端哲也 写真/三友鉄也 協力/フリーペーパーMEG

公演詳細

文学座90周年記念公演『みつ豆』

2026年
12月12日(土)15:00~(14:30開場)
12月13日(日)14:00~(13:30開場)

可児市文化創造センターala 小劇場

チケット発売日
10月10日(土) 09:00~
※電話予約は発売日の翌日9時から

料金
全席指定5,000円
25才以下2,500円
※未就学児入場不可

プロフィール

高橋正徳<演出家>
Masanori TAKAHASHI

2000年文学座附属演劇研究所入所(40期生)。
05年座員昇格。04年文学座アトリエの会『TERRA NOVA テラ ノヴァ』で文学座初演出。以降、川村毅、鐘下辰男、佃典彦、東憲司、青木豪など多くの現代作家の新作を演出。また文学座附属演劇研究所の発表会の演出も多く務める。小劇場まで大劇場まで精力的に活動する傍ら、地方劇団・公共団体・学校などでの演劇ワークショップの講師としても活躍。 2011年文化庁新進芸術家海外研修制度により1年間イタリア・ローマに留学。

秋之 桜子<脚本家>
Sakurako AKINO

大阪府出身。俳優・山像かおりとして文学座に所属し、多数の舞台に出演(2017年退団)。女性二人芝居ユニット羽衣1011を旗揚げ、秋之桜子として脚本家デビュー。2010年、舞台『猿』で第16回劇作家協会新人戯曲賞優秀賞を受賞。主宰する演劇集団西瓜糖の全公演の脚本と出演の他、椿組、花組芝居、流山児★事務所、PARCO、東宝、東映劇場アニメ、NHKドラマ『笹まくら』(26年8月ギャラクシー賞月間賞受賞)など幅広く執筆。演出の高橋正徳氏とは今作で10作品目のタッグとなる。27年2~3月、所属するフクダ&Co.創立10周年公演が控える。

一覧へ戻る