Report
ala まち元気プロジェクトレポート
多文化共生プロジェクト2026『My Roots』
2026 年 09 月 27 日 (日)
「ルーツを語る」から「ルーツを創る」へ
9月27日(日)、可児市文化創造センターalaにて、多文化共生プロジェクト2026『My Roots』のリーディング演劇公演を上演しました。
https://kpac.or.jp/event/tabunka2026_myroots/

可児市には、ブラジル、フィリピン、ベトナムなど、さまざまな国や地域にルーツを持つ人々が暮らしており、外国籍市民は市人口のおよそ1割を占めています。こうした地域的背景のもと、可児市文化創造センターalaでは、文化芸術を通して異なる背景を持つ人々が出会い、互いを知る機会をつくる「多文化共生プロジェクト」を2008年から継続して実施しています。このプロジェクトでは、単に演劇を上演することだけでなく、参加者同士が創作を通して関係を築き、alaがさまざまな人にとって安心して過ごせる場所となり、地域の中に新しいつながりやコミュニティが生まれていくことも大切にしています。
今年のテーマは「My Roots」
2026年度の作品タイトルは『My Roots』。
脚本・演出は、名古屋を中心に活動する劇作家・演出家の刈馬カオスさんが担当しました。
今年4月から9月にかけて、参加者へのインタビューやリサーチを重ね、「ふるさと」「心の居場所」「家族」「国籍」「自分はどこから来たのか」といったテーマについて対話を行いました。また、それぞれの参加者に手紙を書いてもらい、その言葉や実際の人生経験をもとに台本をつくっていきました。16時公演後の交流会で刈馬さんは、参加者へのインタビューや手紙がなければ作品を書くことはできなかったこと、最初から自分の作品を持ち込むのではなく、参加者から受け取った言葉をどのように作品にして観客に届けるかを大切にしたと振り返っています。
「ルーツ」は、ともすると過去や出自を振り返る言葉になりがちですが、今回の作品では、過去を知るだけでなく、「これから自分たちはどのように生きていくのか」「これからのルーツをどうつくっていくのか」という未来へ向かう視点も大切にしました。刈馬さんも交流会の中で、「これから先、みんながどうやって生きていくのか」を描きたかったと話しています。
参加者自身の言葉と経験を舞台へ
出演者は、ブラジル、フィリピン、インドネシア、パラグアイ、アメリカ、日本などさまざまな国や地域、文化的背景を持つ19人のメンバーが集まりました。 舞台には、日本語だけでなく、ポルトガル語、英語、インドネシア語など複数の言語が飛び交いました。

参加者一人ひとりが、自身のルーツや家族、故郷、国籍、地域で暮らす中で感じてきたことなどを、自分自身の言葉で表現しました。
例えば、長年日本で暮らすブラジルにルーツを持つ参加者は、ヘイトや差別に対して感じてきたことを手紙に書き、それが作品の一部となりました。本人は公演後の交流会で、プロジェクト期間中にブラジルへ長期間帰国したことで、日本とブラジルの社会の違いを改めて感じ、その経験から自分の思いを言葉にしたことを話しました。
一方で、日本人参加者自身の生きづらさや家族についての思いも描かれています。
そのため『My Roots』は、「外国人の問題」を描く作品というよりも、それぞれに異なる背景を持つ人が、自分の人生や居場所について考える作品となりました。
創作過程そのものを「共創」の場に
作品づくりでは、完成した台本を参加者が演じるという方法ではなく、参加者、脚本・演出家、演出チーム、劇場スタッフが対話を重ねながら作品をつくりました。
5月~7月にかけて、可児市多文化共生センター「フレビア」の日本語教室でワークショップを複数回実施。8月30日の顔合わせでは、多文化共生をテーマとしたドキュメンタリー映画『Journey to be continued―続きゆく旅―』を参加者とともに鑑賞し、意見交換を行いました。その後も稽古の中で、それぞれの経験や考えを出し合いながら作品を形にしていきました。
国籍、母語、年齢、舞台経験などが異なる人たちが一つの作品をつくる過程そのものを、「多文化共生プロジェクト」の実践の場として位置づけています。
公演後には「多文化交流会」を開催
各回の公演終了後には、出演者、演出チーム、観客が一緒になって作品について語り合う「多文化交流会」を開催しました。

単に作品を観て終わるのではなく、舞台で提示された問いを観客も含めて共有し、それぞれが感じたことを話すことを目的としたものです。
13時30分公演後――「支援する」のではなく「少し寄り添う」
13時30分公演後のトークゲストは、可児市国際交流協会・可児市多文化共生センターフレビアの各務眞弓さんでした。
各務さんからは、フレビアだけで多文化共生を進めることには限界があり、alaをはじめとする地域のさまざまな施設が、外国籍の人にとっても利用しやすく、安心して行くことのできる場所になることが重要だという話がありました。
また、言葉は人と人をつなぐ力になる一方で、壁にもなり得るため、一方的に「支援する」のではなく、必要なところに「少し寄り添う」ような関係が大切ではないかという発言もありました。
日本人の参加者からも、プロジェクトに参加して初めて外国にルーツを持つ人と深く話すことができ、「実際に話してみればすぐ仲良くなれる」と気づいたことや、作品づくりを通して「絆」が生まれたと感じたことなどが語られました。
また、自分自身の経験を手紙に書くことで、それまで気づかなかった自分の思いに初めて気づいたという参加者の声もありました。
16時公演後――「これは本当に外国人だけの物語なのか」
16時公演後のトークゲストは、北海道教育大学の閔 鎭京(ミン・ジンキョン)さんでした。
閔さんは2021年からalaの多文化共生プロジェクトを継続してリサーチしています。今回の『My Roots』について、外国にルーツを持つ参加者が日々の葛藤や社会に対して感じていることを、自分自身の言葉で舞台から語ったことに注目。「それが可能だったのは、劇場が自分たちの言葉を受け止めてくれる安全な場所だったからではないか」という趣旨の指摘がありました。
同時に閔さんは、今回の作品を見ながら、「多文化共生演劇と言いながら、本当に外国人だけの物語なのだろうか」と感じたと話しました。
作品には、外国籍住民が「日本人に迷惑をかけてはいけない」と感じる場面と、男性が女性とエレベーターで二人きりになった際に「相手を不安にさせてはいけない」と距離を取る場面があります。
閔さんは、そこに共通するものとして、周囲に迷惑をかけないよう常に気を遣わなければならない、現代社会そのものの「生き苦しさ」を指摘しました。つまり、作品で描かれた問いは外国籍住民だけの問題ではなく、国籍にかかわらず、この社会で暮らす一人ひとりにつながるものではないか、という問題提起です。 さらに、劇場は社会に存在する問いを投げかけ、観客が作品を通してその問いを共有し、帰宅後も誰かと語りながら「どのような社会をつくっていくのか」を考える場所になり得る、と語られました。
「友達」から「家族のような絆」へ
16時公演後の交流会では、フレビアの日本語教室をきっかけに今回初めて参加した、インドネシアにルーツを持つ参加者の発言も印象的でした。
プロジェクトを通して、さまざまな国やルーツを持つ人と出会い、お互いについてより深く知ることができたと話し、「日本に来たのは、お金を稼ぐためだけではなく、いろいろな人と交流して絆をつくるためでもある」という思いを語りました。
さらに、単なる友達ではなく、「日本でも家族のような絆をつくりたい」と話し、このようなプロジェクトがこれからも続いてほしいと述べました。
これは、alaが多文化共生プロジェクトを通して目指してきた、作品づくりだけにとどまらない「コミュニティ形成」を、参加者自身の言葉で示した場面でもありました。

『My Roots』を通して
今回のプロジェクトでは、演劇作品そのものに加え、そこに至るまでのインタビュー、手紙、ワークショップ、映画上映、稽古、そして公演後の交流会までを、一連のプロセスとして大切にしてきました。
異なる文化について「教える/学ぶ」という一方向の関係ではなく、それぞれ異なるルーツを持つ人たちが同じ場所に集まり、自分自身の経験を持ち寄り、一緒に何かをつくること。その過程で、それまで出会うことのなかった人同士が知り合い、友人になり、舞台が終わった後も続いていく関係が生まれています。
『My Roots』という作品タイトルには、「自分はどこから来たのか」という過去への問いだけでなく、これから誰と出会い、どのように生き、どのような地域を一緒につくっていくのかという未来への問いも込められています。
可児市文化創造センターalaでは、今回の取り組みについて参加者や演出チームと振り返りながら、今後も文化芸術を通した多文化共生と、地域における新しい関係づくりの可能性を考えていきます。
創造事業課 半田将仁
日 程
2026年4月~9月 リサーチ・ワークショップ・インタビューなど計10日
5月30日 みんなのディスコ出演
8月30日~9月26日の毎週土日 稽古
9月27日 ①13:30/②16:00 公演
会 場
可児市文化創造センターala 演劇ロフト 他
出演者
出演者:ブラジル、フィリピン、インドネシア、パラグアイ、アメリカ、日本などにルーツのある19名
サポーター:5名
交流会のトークゲスト:13:30の回 各務眞弓(KIEA)
16:00の回 閔 鎭京(北海道教育大学)
スタッフ
脚本・演出:刈馬カオス
振付:堀江善弘
演出助手:ニノキノコスター
発声指導:今津知也
出演:外国籍市民含む市民参加者
アドバイザー:住吉エリオ洋一、山田久子、村上ヴァネッサ
リンクワーカー:菰田さよ(KIEA)
集客数
2回公演 計111名
主 催
(公財)可児市文化芸術振興財団
協 力
NPO法人可児市国際交流協会(KIEA)
プログラム
各回、公演35分+多文化交流会40分