Report
ala まち元気プロジェクトレポート
座談会「まちが元気になる処方箋」
2025 年 07 月 27 日 (日)

アートと医療が出会う場所で考える、まちづくりの可能性
2025年7月27日、可児市文化創造センターalaの小劇場で開催された座談会では、文化芸術を通じたまちづくりについて、多角的な視点から議論が交わされました。
登壇したのは、岐阜県美術館館長で東京藝術大学学長の日比野克彦さん、川崎市立井田病院の医師で社会的処方の実践者である西智宏さん、そして四国こどもとおとなの医療センターでホスピタル・アートディレクターを務める森合音さんの3名。それぞれ異なる分野で活動しながらも、アートの力で人と人をつなぐ取り組みを続けている皆さんです。



日比野さんは「文化的処方」という概念について、「アートは生きる力そのもの。経済基盤の上に文化があるのではなく、もともと人間の生活にアートがあって、その上に地域や行政が生まれてきた」と語りました。アートには「わからない」ことを受け入れる力があり、すべてを解明しようとする現代社会において、その曖昧さこそが人々を支える大切な要素だと指摘します。
西さんは、医療現場から地域に出て「暮らしの保健室」を運営する中で感じた、表現することの普遍性について話しました。「日本では古来、誰もが歌を詠み、表現する存在だった」として、困っている人を前にして心が動き、自分にできることを考える気持ちが、自然と表現活動や社会的処方につながっていくと説明しました。
森さんは、病院という「痛み」を抱えた人たちがいる場所で、アートを通じて希望を見出していく実践を紹介。医療だけではどうにもならない場面で、アートが「わからないことをわからないまま良し」として包み込む力を発揮すると語りました。特に子どもの医療現場では、科学的な説明では伝えきれない死生観を、文化芸術の世界観で表現することの意義を強調しました。
3人に共通していたのは、専門家だけでなく地域の人々と一緒に取り組むことの重要性です。alaが育成している「まち元気リンクワーカー」のように、日常的に地域とつながりを持つ人々がネットワークを形成することで、孤立や孤独に陥りがちな人たちにもアートや文化の力が届くようになります。
座談会では、森さんから死を迎える子どもたちが通る霊安室の通路に、みんなで青い花を描いたエピソードも紹介されました。医療者の思いを表現する場となったこの取り組みは、アートが持つ「つなぐ力」を象徴的に示したと感じました。

最後に登壇者たちは、アートと医療には深い親和性があり、どちらも「お互いを理解し合いたい、尊重し合いたい」という根本的な願いから生まれているものだという結論に至りました。新しい仕組みを作るのではなく、すでに地域にあるもの、人々の心の中にあるものを、想像力と創造性でつないでいく。それこそがアートの真の力であり、まちを元気にしていく原動力なのです。 この座談会は、文化芸術を通じた地域づくりの可能性を改めて確認する貴重な機会となりました。参加した現在の(そして未来の)まち元気リンクワーカーの皆さんにとっても、自分たちの活動の意味を再発見する時間だったのではないでしょうか。
創造事業課 半田
日 程
2025年7月27日(日)
会 場
可児市文化創造センターala 小劇場
パネリスト
日比野 克彦(岐阜県美術館長、東京藝術大学学長)
西 智宏(川崎市立井田病院医師、一般社団法人プラスケア代表理事)
森 合音(四国こどもとおとなの医療センター ホスピタル・アートディレクター/NPOアーツプロジェクト 代表)
あいさつ
冨田成輝(可児市市長)
篭橋義朗(可児市文化創造センターala館長)
ナビゲーター
水野 友有(中部学院大学人間福祉学部人間福祉学科教授)
半田 将仁(可児市文化創造センターala 創造事業課)
集客数
72人
主 催
(公財)可児市文化芸術振興財団
協 力
まち元気リンクワーカー