Event report
公演レポート
文学座公演「もうひとりのわたしへ」
2025 年 08 月 06 日 (水)

撮影:宮川舞子
「文学座がいてくれること」
日本を代表する現代劇の劇団「文学座」と、アーラが地域拠点契約を結んだのが2008年。以来、可児では毎年文学座の公演が観劇できる。もちろん、アーラでは観劇以外にも、文学座の一流の演劇人たちが、市民創作の指導やコミュニケーションワークショップを行ってくれている。しかし先ず、毎年必ず文学座の公演が観られるということが、地方にあってどれほどの恩恵かという事を、考えずにはいられない。
文学座の創立が1937年。再来年で実に90周年を迎える。立派な老舗である。老舗であるからと言って、扱っているものが古いという事でもない。日本古来の能や歌舞伎の伝統劇とは違う、西洋伝来の現代劇が彼らの領分だ。まあしかし、現代劇と言いつつも、戯曲は古代ギリシア悲劇からエリザベス朝のシェイクスピアなど古い時代のものもある。古い時代のものもあるが、演出や演技の様式を古来より踏襲しているわけではないのでそれは決して古典劇ではない。文学座の創立理念には、こういうことが書かれている。
「現代人の生活感情にもっとも密接な演劇の魅力を創造しよう」
例え戯曲が古くとも、文学座の舞台には現代人の心に訴えかける何かがある。
昨年(2024年)の公演はシェイクスピアの四大悲劇の一つ『オセロー』だった。言葉や装いこそ古い時代を想起させるものだったが、舞台に立つ登場人物たちは現代人の心の琴線に触れ、共感を呼びおこす人間らしさにあふれていた。いや、今思い返しても、あの舞台は出色だった……。
さあ、今年は一体何が観られるかと、期待に胸を膨らませているところにやって来たのは、まさに今この2000年代が舞台の新作書下ろし。
しかも、劇中で歌うどころか、ラップをやるという。
シェイクスピアからの、このギャップよ。
当然の如く、公演前から各所で物議を醸していた。
しかし、今一度先の言葉を思い返していただきたい。
「現代人の生活感情にもっとも密接な演劇の魅力を創造しよう」
ラップ、一見して老舗劇団とは縁遠いような印象もあるかもしれないが、よく考えてみると、今現在巷にあふれる流行歌の多くには、何らかラップの要素が含まれており、ラップ自体もすっかり「一般的」な存在になっているではないか。
現代人の生活の中には、もうラップがあって当たり前なのである。
だったら、現代人を描く文学座がラップを取り入れても、何ら不思議ではない。
むしろ必然。
そして安定したレパートリーを持つ老舗でありながら、こういう新しい現在の状況に果敢に対応していく姿勢こそが、文学座が信頼を得ている所以であると思う。
そんな文学座がいてくれるからこそ、可児では毎年違った、多様性にあふれた舞台作品を観劇できて、常に新しい今の感覚を保ち続けられている。
まあ、何よりも、安定して面白い舞台をやり続けてくれるのが、素直に有難いです。
創造事業課 中尾
公演アンケートより
身近にあるいつ自分がどの対象にもなる可能性のある問題を俯瞰して見られて良かった。
1役を2人で演じられAの私とBの私の入れ替わりを立ち位置の上下や手前と奥で進行するのが自然に流れるのも良かったです。(60代・女性)
さすが文学座!自分に置き換えて想像したり、いろんな意味で奥深い作品。会場に入った時からのBGMが作品を観て納得ができました。アフタートークもよかったです。作家さん、演出家さんの思いが聞けてなお作品の内容がよりわかりました。(50代・女性)
今年はラップとは!振り幅が驚くほど広くてどうなるんだろうと思いましたが、見終わったらやっぱり文学座のお芝居だな、良かったなと思いました。(50代・男性)
日程
2025年
7月4日(金)18:30
7月5日(土)14:00
会場
可児市文化創造センターala 小劇場
作
田村孝裕
演出
五戸真理枝
出演
高橋ひろし、郡山冬果、横田栄司、畑田麻衣子、山森大輔
吉野実紗、萩原亮介、宝意紗友莉、稲岡良純
集客数
412名
主催
(公財)可児市文化芸術振興財団