Essay

エッセイ・連載

「昭和」は遠くなりにけり

2021- 館長 篭橋義朗

2025 年 02 月 01 日 (土)

可児市文化創造センターala 館長 篭橋義朗

 3月20日に倍賞千恵子のコンサートを開催します。今回はこの公演の企画意図を記したいと思います。

 私たちが若い頃よく聞いたフレーズに「明治は遠くなりにけり」という言葉がありました。昭和初期の世相を反映し、気骨ある明治時代へのノスタルジーを表したものです。私たちは戦後の高度成長期の昭和時代を体験し、平和と自然災害の平成時代を経て今、令和時代を生きています。しかし今回のタイトルにもある通り、昭和こそ真面目に日々を過ごしていれば必ず明日は明るくなると感じられた時代だったのではないかと感じています。そして今はデジタル技術の発展などにより玉石混交の意見が飛び交い、不寛容で窮屈な時代と感じるのは私だけではないと思います。私たち昭和世代の者としては通信手段や情報が限られた中、家族団らんで一つのテレビを囲み、濃密な家族関係や人間関係を身に付けてきました。現代は、スマホ一つあれば、いつでもどこでも情報が手に入り、世界中の人たちとつながることが可能であり、「便利さ」が24時間寄り添っています。私自身も当然にその恩恵を享受しています。しかし、だからといって、昭和時代の人々よりも「心が豊かになった、幸福感が増した」とはとても思えません。祖父母や父母の時代からは本当に遠くへ来てしまったことや、これからのこの国の行く末にとても大きな不安を覚えます。


 当時、流れていた昭和の叙情歌は私たちの心の奥底にある 人としての大切なもの を育ててくれたものと思います。時代の流れというのは一直線に性急に進むものではなく、過去の時代に対する郷愁を感じ、残しながら進むものだと思います。


 以上の意味をもって、今は「減多に歌わない歌手」とされ、それが大女優とのイメージとも重なって、倍賞千恵子の歌は希少価値があります。今回、予定されている歌は
 ♪下町の太陽 ♪さくらのバラード 
 ♪死んだ男の残したものは ♪さよならはダンスの後に
などです。多くの昭和の叙情歌に包まれ、しっとりとした時間を過ごしていただきたいと思います。

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