Special 開館20周年を迎えた「アーラのこれから」
楽しくてクスっと笑う、苦しいところから立ち直って小さな微笑みを取り戻す、「笑顔の劇場」
文化芸術の力がどう貢献できるのか探っていきったい
開館から20周年を迎えるアーラ。これまで市民との関わりを大切に、さまざまなプロジェクトが行われてきました。今回は「アーラまち元気プロジェクト」に携わるお二人、Ten seeds 代表の黒田百合さんと、劇団あおきりみかん主宰で劇作家・演出家の鹿目由紀さん、そして篭橋館長に、コロナ禍で実施したプロジェクトの成果、そして今年度の抱負を語って頂きました。
―アーラが開館から20周年を迎えました。
篭橋館長:ちょうど可児市が市制40周年、アーラが20周年ということで20歳を迎えました。可児市はもともと市民参加や市民参画が進んだ町です。アーラが誕生して、市民の皆さんとさらに活発に活動してきました。今日ご一緒している黒田さんや鹿目さんをはじめ多くのアーティストの皆さんと共に、市民と作品をつくったり、ワークショップを行ったりしてきました。でも昨年度はコロナ禍で、これまで活動していた市民の皆さんも本当に悔しい思いをして、いま我慢している状況ですよね。この状況が終息した時には全世代が力を合わせて、心豊かに人と繋がり合うことができる場所として元気を取り戻したいと思っています。
―黒田さんはアーラでの活動歴はどれくらいになりますか?
黒田百合:もう14年になります。2008年度の市民ミュージカル『あいと地球と競売人』が1回、2011年度から2017年度まで『君といた夏』が3回で合わせて4回。いま、改めて感謝を申し上げたい気持ちでいっぱいなんです。それは、最初に関わった時に小学1年生だった子が今20歳になっているのですが、ミュージカルを通じて3年ごとに私たちはその子たちに会って成長を見届けています。また、出演した子たちが子どもを産んで、乳幼児の親子対象の「親子de仲間づくりワークショップ」に来てくれたり、そのワークショップで3歳だった子が、いつの間にか『君といた夏』の主役を狙っているとか(笑)。14年という歳月からさまざまな循環や繋がりが生まれている。そんな場所がこのアーラです。もちろん過去も語れますが未来も語れるんですよ。
―2008年度からスタートした「アーラまち元気プロジェクト」の大きな成果ですね。
黒田百合:そう思います。高齢者のワークショップ「ココロとカラダの健康ひろば」では、ご主人を亡くされて元気のなかった方が元気を取り戻して、ala Collection シリーズ(*alaが制作する演劇公演)のサポーターになったり、市民ミュージカルに出演されたり。そんな様子を目の当たりにすると、アーラが元気にしてくれる場所になっているんだなと実感します。私はそれを見届けることができる。そういうチャンスを頂いて本当に感謝しています。
―鹿目さんは2018年度の「多文化共生プロジェクト」から関わっていらっしゃいます。文字通り、さまざまな人種や世代の方を結びつけ、互いの理解を深めるためのプロジェクトですね。
鹿目由紀:色んな国の方や演劇が初めての方もいらっしゃいます。プロジェクトは出演者へのインタビューを通してテーマを模索していく、《ドキュメンタリー演劇》という形で進めていきました。例えば2018年度の『ある夜、あるBarにて』では、日本とブラジルのバーがなんだか違って、ブラジルではBarがファミレスやみんなの悩み相談所みたいになっているというのを知り、それを題材にしました。
―この手法は今までの演劇作品でも経験があったのですか?
鹿目由紀:初めてです。作品づくりの過程で出演者の方が深刻な悩みを抱えていたり、心を痛めていたりすることに気づくこともありました。そういったことを作品の中でどうすくい取っていくか、少しでもその悩みを和らげることが出来ないかということを考えていました。それが多文化共生という趣旨に繋がっていけばと思いました。
―2020年度は、クレイアニメーション『トラバーユ』、2021年度は、リモート収録を取り入れた舞台作品『こころの井戸』が制作されました。
鹿目由紀:心配もあったのですが意外にも参加者が増えて、みんなが色んな国の人に声をかけてくれました。おかげで私がパソコンの前から離れられなくなったりしましたが(笑)、すごく面白かったです。昼夜逆転しているブラジル在住のお母さんと繋いだり、これはもうリモートでなきゃ発想しなかったことです。もちろんリアルで会えた方がいいですが、会えなくてもこれだけ広がるということが分かったことは収穫だったと思います。
―黒田さんが関わるミュージカルやワークショップもふれあいが欠かせないものですね。
黒田百合:昨年度は、「THE MOVIEみんなと繋ぐ『君といた夏』2022」という形でムービーを上映しました。朗読と過去映像、応募してくださった皆さんの歌と動画を撮って合わせるという作り方です。出演者OBの子たちも動画を送ってくれたんですが、「誰これ?」みたいな、よく見たら「あ!ミノルだー!」という感じで、やはりみんなの変化や成長をみんなで共有できたことはよかったです。ただ、歌と踊りの指導の先生が動画を撮って指導されたのですが、それを見て練習するのは大変だったろうなと思います。
篭橋館長:いずれのプロジェクトも、市民サポーターや関係各所のご尽力がありその結晶として作品が生まれています。今お二人が話されたようにコロナ禍でも新しい発見を生み出すことはできましたが、やはり舞台で人が動いて、客席から人が観るという行為には代え難いですよね。いまも我慢を続けていますが、来るべき時にはこうしよう!ああしよう!という思いばかりです。そして、人と人との関わりによって、アーラという場所は成り立っているんだということを実感しました。
―コロナ禍により、人と人との関わりやふれあいの大切さが浮き彫りになりましたね。
黒田百合:小学校にアウトリーチでお邪魔すると、アンケートに「今日は今まで喋ったことのない子と喋った」というのがたくさんあります。コロナ禍になって心配なのは、そういう新たな関わりが無くなっているのではないかということ。だからまず、これをどう回復していくかということが一番の課題になると思います。それはミュージカルやワークショップも同様です。同じ場所にいて何かを分かち合うこと。誰かのことをちょっと思ってあげる、想像するということをもう一度ちゃんと楽しめるようにしたいと思っています。
鹿目由紀:マスクで表情が見えなくなったことも心配です。例えば、大人のスタッフに子どもがなかなか返事をしてくれないことも。でも、マスクをしていても大人が大きく返事したりリアクションしたりすると、子どもたちの声が出てくるんです。子どもたちにも何か遠慮があるのでしょうね。マスクをしてもできることはあるというように、いま進化しようとしているじゃないですか。だからマスクが無くなったらもっといい世界が待っているぞと思いたいですね。
黒田百合:可児市は外国籍の方が多いですよね。ワークショップで日本の子たちと外国籍の子たちが、言葉が通じないから身振り手振りでなんとか伝えようとする様子を見ると、凄くいいなと思います。ごちゃ混ぜになることで何かが生まれること、想像力で解決していくことは素晴らしいと思います。
鹿目由紀:分かります。まったく喋らない外国籍の高校生の子が、ワークショップで変わっていって、「実はこういうことをやりたいんだ」なんて語り始めていくことがありました。何か自分が思いもよらなかったことを言われることが凄くありました。作品をつくる中で、この子を一番の笑顔にすることを目的として何か進めようって、勝手に心の中で思ってやることはよくあります。
黒田百合:私の演出としては「待つ」。これが難しいのですが、その子が選び取ることをなるべくこちらが待つようにしています。
―お二人の演出の手法が、アーラのプロジェクトの趣旨にしっかりと生かされているのですね。
篭橋館長:本当は教育の現場でも生かせるといいのでしょうが、なかなか難しい。学校には時間割も学期もあるし、先生はやるべきことをたくさん抱えていますから。そういった意味では、アーラが担うべきことは、家庭や学校・会社に続く第3の場所になることかもしれません。
黒田百合:アーラのプロジェクトにもルールはちゃんとある。でも楽しいこともあるから、それを守れるのかもしれないですね。
鹿目由紀:第3の場所であるアーラでの成果が、家庭や学校・会社に還元されて欲しいですよね。それがまた波及して、いいことはどんどん取り入れてもらう。それで全部が良くなると一番いいですね。
―最後に館長から、今後の抱負をお聞かせください。
篭橋館長:これまで 「アーラまち元気プロジェクト」 として活動を続けてきたことを、さらに多くの市民に届けられるよう発展させていきます。私は、「笑顔になれること」 を大事にしたいです。教育長時代から、可児市の学校など教育の場で、「笑顔の学校」 というスローガンを掲げています。楽しくてクスッと笑う、苦しいところから立ち直って小さな微笑みを取り戻すなど笑顔もさまざま。そんな願いを 「笑顔の劇場」 という言葉に込めて、学校や地域との連携関係もより深めていきたいと考えています。さらには、いま苦しい状況にいる大人や子ども、そんな人たちのケアをするために文化芸術の力がどう貢献できるかを探っていきたいと思います。
取材/福村明弘 撮影/多和田詩朗 協力/フリーペーパーMEG