Special 『反田恭平プロデュース ジャパン・ナショナル・オーケストラ』反田恭平インタビュー
ピアニスト反田恭平と若手スター集団オーケストラ、ジャパン・ナショナル・オーケストラがアーラに初登場!
ピアニスト反田恭平は昨年、日本初となる株式会社化したオーケストラを設立した。それが若手トップ奏者を揃えたスーパースター・オーケストラ、ジャパン・ナショナル・オーケストラ(以下JNO)だ。反田の弾き振り(指揮とピアノを同時演奏)×JNOがアーラで熱演を披露する!
-JNOが始動して1年半余りが経ちましたが、これまでの感触はいかがですか?
JNOはメンバーそれぞれのリサイタルシリーズを一つの柱として開催しています。最初は結構大変な思いをしていましたけど、1ヶ月前より今、その後さらにという感じで僕たちを知ってくださる方が増えてきているのを感じています。なので、これは積み重ねが肝心かなと思っています。そもそも毎月公演をいくつもやっているオーケストラではなく、久しぶりに会ってお互いの成長にみんな刺激を受け合いながら、アンサンブルをしたりしています。
-今回は、ベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番と、モーツァルトの交響曲第38番『プラハ』がメインです。聴き応えたっぷりのカデンツァや、JNOのソリスティックな響きも堪能できる楽しみなプログラムですね。
ベートーヴェンの2番のピアノ協奏曲は2020年に僕たちは弾いていますが、コロナ禍だったので3回しか公演ができなかったんです。ですから、もう1回弾きたいという強い思いがありました。また、前回この曲の演奏では、メンバーの意識が非常に集中していたのを感じました。今回は途中まで差し掛かっているその団結力を、確かなものにしたいと考えています。 カデンツァは前回、自分で書いた短いものを演奏したのですが、今回はベートーヴェンが書いたカデンツァに初めてトライします。『プラハ』は、指揮の先生からも課題で出され勉強している曲です。面白いアイディアがたくさんあるので、ぜひ注目してほしいですね。
-今年からウィーンに拠点を移し指揮を学ばれているのですよね。
高校の時に副科で齋藤秀雄先生の指揮教程を学んで、これまではその教本が自分の中である程度を占めていたんですが、やっと本格的に指揮のいろはを学ぶことになりました。レッスンは結構長くて、1回で4、5時間ということもよくあります。指揮の勉強で面白いのは身体の動かし方ももちろんですが、頭の使い方です。自分がどういう音楽をイメージしているのかをオーケストラに伝えることなんですが、指揮者は音を出さないので、 どれだけその音楽をイメージできるかが勝負です。指揮台に立って、例えば悲しい音を出したい時にどれだけ悲しいことを思い浮かべられるか。それを自分が出したい音として先取りし、 イメージして振らなければいけないのが一番難しいと感じています。
-目標とする指揮者はいますか?
ピアニストに関してもそうなんですが、特にいないんです。 ただ、僕と同じくピアニストから指揮に転向したり指揮もする方は、同じタイプの人間だと感じていますし尊敬しています。ダニエル・バレンボイム、ミハイル・プレトニョフ、チョン・ミョンフンといった方々でしょうか。ピアノ出身者の一番のメリットは、1人でシンフォニーを弾けること。ピアノは多声部の楽譜を演奏することが日頃から当たり前にあるので、そういう意味でも何声部もあるシンフォニーのスコアを読んで、1人で練習できることは武器であると思います。
-指揮を勉強したことで、ピアノを弾く際に変化したことはありますか?
あります、あります!中学生の頃から、ピアノの音を何の楽器か?と例えるのがとても好きです。ここの声部はコントラバス、ここはファゴットとか。 ピアノの演奏で、ここはよくわからないなというような時には、1人で指揮を振ったりします。そうすると違う視点からイメージができるんです。シンフォニーやコンチェルトなどを指揮して強く思うことは、ピアノは自由に人で弾けるけれど、オーケストラで演奏する時は、基本的に大きく変えられないところが絶対にあるということです。オーケストラは1stヴァイオリンが10人いれば、10人の音で一つの1stヴァイオリンの音が出来上がるわけです。これはやっぱりピアノだけを勉強していても、なかなか身につかない技術であり考え方だと思います。
-JNOのキャラクターや特色、これから目指す音楽性はどのようなものでしょうか。
キャラクターが形になるにはまだまだですが、ここ3年はとても大事な時期だと思います。JNOは、常にみんなが一緒に活動しているオーケストラではないんですね。だからまずは、僕自身がどういう音を欲しているかを、言葉ではなく指揮の技術で正確に伝えられるようになりたいです。その上で、 将来はウィーン・フィルのような虹色の音をJNOでも作りたいなと思っています。 ウィーン・フィルは「みんなでウィーン・フィル」というのが僕のイメージです。現地で聴いて感じたのは、 彼らは世界に一つしかない特別な音を持っているということ。それには楽器の音色や音楽の方向性の統一感だったり、いろいろな理由があると思います。僕らも、そうした唯一の顔を持つようなオーケストラを作りたいなと考えています。喫茶店で流れてきたら、「あ、これJNOだね」というくらい、音楽を聴いてわかってもらえるようなそんなオーケストラを目指したいですね。
-最後に、今年開館20周年のアニヴァーサリーを迎えるアーラとお客様へ、メッセージをお願いします。
我々が一緒に集まって演奏すること自体が、楽しみでならないんです。それをアーラのような素敵なホールで演奏していくことが、我々にとってとても大切なことだと思っています。アーラの公演は今回のツアー初日。多分みんながとりわけ力を入れています。僕が一番力が入っているかもしれないですけど(笑)。ぜひ、楽しみにしていただけたらなと思います。
取材/中村ゆかり 撮影/安田慎一 協力/フリーペーパーMEG