Special 『シリーズ恋文vol.12』北村有起哉インタビュー
大切な誰かに宛てた恋文を、心を込めて
毎回好評を博しているアーラ・オリジナル企画の朗読劇『シリーズ恋文』。12回目は藤井ごうさんの構成・演出のもと、北村有起哉さんと山田真歩さんのお二人が、ピアノの素敵な生演奏とともに新たな“恋文”の世界を構築します。
-アーラ・オリジナル企画『シリーズ恋文』も12回目を迎えます。秋田県二ツ井町(現・能代市二ツ井町)で開催されていた「日本一心のこもった恋文」コンテストの受賞作を集めた書籍をもとに構成された、二人の俳優による朗読劇です。今回、北村有起哉さんは山田真歩さんとともに『恋文』の世界に挑まれますが、まずはこの企画に心惹かれた理由をお話いただけますか。
12回も続けて来られている、そのエネルギーがすごいですし、それだけ手応えがあったということなので面白いプロジェクトなのだろうなと思いました。また、東京での仕事が続いていたのもあって、もっといろんな場所に行ってしっかりとモノ作りがしたいなと考えていたんですね。自分のプロフィールに確かな何かを残したい、ちゃんとバランスを取りたい、そんなふうに思っていたタイミングに今回のお話をいただきまして…ただ、あれ?可児市って行ったことがあるぞと(笑)。
-2005年のこまつ座公演『小林一茶』で、主劇場のステージに立たれていますね
もう15年以上も前ですね。一回だけの公演でしたが、劇場がすごく立派で面食らったこと、客席の真っ赤なシートがとにかくカッコ良かったことを覚えています(笑)。今回の『恋文』は小劇場ですか。お客さんとの距離が近そうですね。
-いくつかの恋文を二人で語り繋ぐ、ほかとはひと味違う朗読劇ではないでしょうか。
そうですね。ようするに、十通あるとしたら十人十色になると。演出の藤井さんがどんな世界に僕らを連れて行ってくれるのか、真歩ちゃんがどんなふうにやるのかも楽しみです。またお客さんの持っている空気によっても、雰囲気が変わって来る。可児市のお客さんは『恋文』の常連の方もいらっしゃると思うので、そこも楽しみですね。あまり気負わずに、僕らにしか出来ないパフォーマンスが出来たらなと思います。藤井さんとは以前やはり朗読劇でご一緒していて、とても穏やかで、作品に対するイメージをしっかりと持っている方です。職人気質というか、マイペースで本当にやりたいことしかやらない人(笑)。真歩ちゃんとは昨年ドラマで共演した時に初めて会ったんですけど、不思議な魅力の持ち主で、声が独特なんですよね。ふわ〜っとした優しい声で。あと、彼女は日本舞踊をやっているんですよ。実は僕もやっている…って言うとものすごく踊れるみたいに思われたら困るんですが(笑)、撮影現場で日本舞踊の話で盛り上がったりしたので、その繋がりは大きいかもしれませんね。だからと言って「踊りながら朗読して」なんて言われても無理ですけど(笑)。
-それもちょっと期待してしまいますが(笑)。ここで北村さんご自身の“恋文”の思い出やエピソードを伺ってもよろしいですか?
恋文、つまりラブレターですよね。僕、結構マメに書いていたのを思い出しました(笑)。ずいぶん昔、若くて恋人もいなくて気力も体力も精力もいっぱいある時に(笑)、旅公演の途中のどこか、場所はまったく覚えていないんですけど、洋食屋さんでオムライスを食べていたら、その店のホールにいた女の子がすごく可愛かったんです。それで卓上にあった紙ナプキンに、僕はこういう者です、役者をやっています、可愛いなと思いました…とかボールペンでバ〜ッと住所まで書いて(笑)。「僕は明日、また違う街へ行ってしまいますけど、オムライス美味しかったです。ご馳走様でした」と。そうしたら、一ヶ月後くらいの忘れた頃に返事が来たんですよ! 「頑張ってください」という応援の内容でしたけど。
-すごい! 素敵な人だなと思ったら、伝えずにはいられなくなるんですね(笑)。
ハハハ、そうですね。あと、やっぱり20代の頃、アキレス腱を切って十ヶ月くらい何も仕事が出来なかった時期がありまして、当時の近所のコンビニで可愛い子がアルバイトしていたんですよ。松葉杖ついて弱っていたから、相手がマリア様みたいに見えたんですかねえ(笑)。その子には便箋に小っ恥ずかしい内容を書いて、松葉杖つきながら不器用に「これっ」と渡したのを覚えています。今思い出しても恥ずかしい〜。そうしたらまた一ヶ月後くらいに「頑張ってください」ってだけの返事が来ました(笑)。
-返事の確率が高い! 恋文には親近感があるようですね(笑)。
そう、二通出して二回返事が来ましたから、100%の確率です(笑)。思ったことを言葉にして、それを文字にする作業は、自分の感性とか語彙力とかが試されますよね。僕はブログをもう20年以上続けているんですが、やっていて良かったなと。言葉を選んだり、表現に気をつけたり、ちゃんと立ち止まって、考えて、書くということを、ブログのおかげで意識するようになりましたから。今はスマホで簡単に気持ちを伝えられるけど、ちょっと味気ないなとも思いますよね。自ら書いて伝えることの大切さをあらためて感じます。
-恋文に込められたたくさんの思いを、どのように表現してくださるのか、楽しみにしています。
藤井さんと真歩ちゃんと僕にしか出来ない舞台をお届けしますので、『シリーズ恋文』を初めて観る方も、常連の方も新鮮に楽しんでいただけるのではないでしょうか。可児市の素晴らしい劇場で行われる素朴で優しい企画、僕はそこに惹かれましたので、皆さんと一緒に素敵なひとときを味わえたらなと思っております。
取材/上野紀子 撮影/中野建太 協力/フリーペーパーMEG