Special 「フートボールの時間」瀬戸山美咲&堺 小春 インタビュー
サッカーに打ち込む大正時代の女性たちが、現代に投げかけるもの
質の高い演劇作品をお届けする”ala Collectionシリーズ”の第14弾は、高校演劇の戯曲をもとに、瀬戸山美咲さん潤色・演出、堺小春さん主演で上演される『フートボールの時間』。大正時代にサッカーに打ち込んでいた先生と女学生の物語に込めたい想いとは? 瀬戸山さんと堺さんに聞きました。
-今回の作品は、2018年の全国高等学校演劇大会で最優秀賞に選ばれた丸亀高校演劇部による戯曲がもとになっています。どこに面白さを感じられましたか。
瀬戸山 大正時代の丸亀高等女学校の学生たちが笑顔でボールを蹴っている一枚の写真から生まれた戯曲だそうですが、なぜそんな写真があったのか、写真があるにもかかわらずその後なぜ女性のサッカーがやられなくなってしまったのか、題材自体がミステリアスで非常に興味をそそられました。そして100年経った今も、例えば東京医科大学の入試で女子受験者の点数が一律に減点されていた事件に象徴されるように、女性の可能性が狭められている状況は変わらない。そういう問題も、女学生の瑞々しい姿を通してビビッドに描いていて、魅力的な作品だなと思いました。
-それを潤色・演出されるにあたって、考えられていることは?
瀬戸山 さらに世界を広げて、大人のドラマも描こうと考えました。それで女学生にサッカーを指導している教師・井上通子(堺小春)を主人公にして、通子たちに立ちはだかる人々の背景もひとりひとり細かく描いていこうと思っています。また、新たに地元の写真館の娘である青山梅子(井上向日葵)を登場させて、通子と梅子のシスターフッドのような物語も加えました。先進的な考えを持っている通子やサッカーを楽しむ女学生と出会うことで、自分も写真を撮りたいと思いながらも女性だからできないと思っていた梅子が、自分の可能性に気がつき変化していく。ただ、女性に限らず、誰もがやりたいことができて活躍できる社会になればというお話なので、いろんな方に観ていただければと思いますし。別に堅苦しいお芝居ではなく(笑)、サッカーの要素を身体で表現したり、美術や衣裳に大正時代のかわいらしさを取り入れて、ビジュアル的にも楽しい作品にしたいと思っています。
-通子役の堺 小春さん、オーディションで選ばれた4人の女学生役の方々など、皆さんとどんな創作ができそうでしょうか。
瀬戸山 堺さんはのびのびお芝居することで輝く俳優さんだなと思うので、サッカーを楽しく教えるという今回の役にぴったり。女学生の4人は、相手のお芝居をちゃんと受けて会話できて、なおかつ、個性が立っている方々。可児に長く滞在することになりますが、他の皆さんも一緒に前向きに創作していけそうな面々なので、本当に楽しみにしています。
-『フートボールの時間』では、女学生たちとサッカーに勤しむ教師・井上通子を演じられます。
堺 先生という役柄は初めてで、生徒の皆さんをしっかりまとめていけるのか心配です。でも、学生の頃からなぜか、学級委員や部活の部長を任せられて、確かにいろんな人に話しかけていくタイプではあるので。それを活かして、皆さんと和やかにお芝居を作っていければと思っています。
-女性がサッカーをするなんてと非難される時代にやりたいことをやり、偏見をなくそうとする通子をどう感じますか。
堺 そういう時代に生まれても強く生きていく女性の姿はすごく素敵だなと思いました。多様性が重視されている現代だからこそ、その姿は訴えるものがあるんじゃないかなと。私は、大河ドラマ「いだてん〜東京オリムピック噺〜」(2019年)に、東洋の魔女の谷田絹子の役で出演したんですけど、スポーツをやっていたらお嫁にいけないと言われるなかで彼女たちは頑張っていました。誰かの行動ですぐに世界が変わるわけではないですが、そんなふうに頑張った人たちが今の時代を作っているのかもしれないなと思うので。井上通子先生もその一人なんだという強い気持ちを持って演じたいなと思います。
-ご自身も、建築を学ばれていた大学3年生のときに「役者になろう」と決め、お母様の岡田美里さんの反対に遭いながらもやりたいことを貫かれていますね。
堺 母には大反対されました。でも、「だったら、母の力も父(堺正章)の力も借りずに自分でやってやる!」と(笑)、オーディションを受けて、舞台『転校生』(2015年)への出演が決まって。それ以降は母も応援してくれていますし、制限されたことが逆に原動力になったので今は感謝しています。
-11歳のときに『アニー』でデビューされ、改めて役者になろうと思われてから多くの舞台に出演されています。今回の主演舞台でどんな挑戦がしたいですか。
堺 主演させていただくのは、『金魚鉢のなかの少女』(2018年)以来2度目です。あのときは無我夢中で、父からも「そんな暗い顔をしてちゃダメ。稽古は苦しんで本番は楽しむんだ」と言われました。あのときから少しは成長していると思うので、柔軟にいろんな方向から役にアプローチするということを稽古で試して、本番を楽しみたいと思っています。
取材/大内弓子 撮影/中野建太 協力/フリーペーパーMEG