第66回 祝!坂部文昭さん、読売演劇大賞『優秀男優賞』受賞
2016年2月29日
可児市文化創造センターala 事務局長 山口和己
このたび、『ala Collectionシリーズvol.8すててこてこてこ』において人情噺の名人三遊亭円朝役を演じられた文学座の坂部文昭さんが、見事、この役で第23回読売演劇大賞の優秀男優賞を受賞されました。心からお祝いを申し上げます。『ala Collectionシリーズ』及び「すててこてこてこ」については、館長VS局長の第62回で紹介しましたが、この朗報を受け、ぜひ、少しでも多くの方々と喜びを分かち合いたいという気持ちから、再度取り上げることにしました。
文学座の劇団代表で円朝役に決まっていた加藤武さんが7月31日に急逝され、急遽の代役登板。非常に厳しいスケジュールに戸惑われたことと思います。
私が印象に残っているのは、坂部さんが8月の末頃、可児入りして稽古に入られたあたりに、当演劇の関連企画の席にお呼びして挨拶をお願いしたとき、関係者や市民の皆さんの前で、今回の代役を「大先輩への思いを胸に、真摯に受け止め、全うしたい」とおっしゃったことです。それ以後も、この「真摯に…」という言葉を多く聞かせていただきました。
実は、後からわかったのですが、文学座の舞台「怪談牡丹燈籠」、奇しくも今回と同じく三遊亭円朝の怪談噺が題材になっているのですが、過去に4回上演され、3度目までは加藤さんが円朝を演じ、4度目に坂部さんが抜擢されたそうです。そのとき落語のことや円朝について、加藤さんがマンツーマンで熱心に教えてくれて、「怖い先輩」のイメージから「真摯な人」へと印象が変わったというエピソードがあったとのことでした。
これまでに、『ala Collectionシリーズ』は8作品が世に出されましたが、実は、坂部さんは、第4作『エレジー~父の夢は舞う~』において、主演の平幹二朗さんの弟役で出演されており、しかもこの作品は、その年の文化庁芸術祭「芸術祭優秀賞」を受賞し、さらに主演の平さんは、このとき第19回読売演劇大賞 優秀男優賞を受賞し、ダブル受賞となりました。
また、その翌年、第5作『高き彼物』は、十三夜会賞を受賞、2014年度の第7作『黄昏にロマンス~ロディオンとリダの場合~』では、リダ役を演じた渡辺美佐子さんが第40回菊田一夫演劇賞 特別賞を受賞されました。
制作した8作品において5つの賞をいただいたことは、非常に名誉なことであり、地方の劇場として誇れることだと思っています。
過去の優れた戯曲に焦点を当て、リメイクすることで作品を再評価していく『ala Collectionシリーズ』、公共ホールによるプロデュース公演として、可児市から全国に質の高い作品の発信を目指しています。
坂部さんが可児市に滞在しておられた間にお聞きしたのですが、実は、この役のお話が来るまでのある一定期間、事実上休業のような状況に身をおかれていたようです。仕事のこと、プライベートなこと、様々考えることがおありであったように伺いました。
そんな状況下、加藤先輩の急逝、急遽の代役指名とのことで気持ちが混乱する中、考えるより使命感のようなものに突き動かされて引き受けることとなった胸の内も明かされました。
これを運命というのでしょうか、抱えておられた悩みよりも「真摯に役を引き受け、全うする」ことのみに無我夢中で取り組まれたことと思います。そのときの様子を私は、館長VS局長の第62回で、「短期間に円朝になりきっていく姿にプロの俳優の姿を見せていただいた」と表現しました。
その結果が見事、今回の受賞に結びついたのですから、私としても、ヒトゴトには思えず、小躍りしたくなるほどの心境になりました。
また、今回の『ala Collection』は文学座とアーラとの共催事業の形をとり、また、「加藤武 追悼公演」と銘打ってのものでありました。坂部さんのお喜びもひとしおのことではなかったかと推察します。
「すててこてこてこ」の東京公演の最終日にお会いして以来、坂部さんとは言葉を交わしていませんでしたが、2月29日に東京の帝国ホテル、孔雀の間において、読売新聞主催の贈賞式及び懇親パーティーが開催され、その会場にて、直接お祝いの気持ちを伝えることができました。
ちょうど、日本時間ではこの同日、米カリフォルニア州のハリウッドでアカデミー賞の授賞式が行なわれましたが、こちらの会場も豪華で派手な演出もあり、素晴らしい贈賞式&懇親パーティーでした。といって、私は贈賞式には初めての参加であり、ハリウッドも行ったこともなく、比較のしようが無いのですが…。
読売演劇大賞は、昨年1年間国内で上演されたすべての演劇から最も優れた作品や人に贈られるもので、作品、男優、女優、演出家、スタッフの5部門の最優秀賞と杉村春子賞の中から選出されます。大賞は、歌舞伎の世界からで最優秀男優賞に輝いた片岡仁左衛門さんが受賞されましたが、当贈賞式で表彰された皆さんは、当然のことながら、どなたも素晴らしい活躍をされた方ばかりでした。
そんな中で、坂部さんも受賞されたのですが、その後の懇親パーティーでも至って冷静で、「登板が決まって千秋楽まで、周りの共演者やスタッフ、サポートの方々から非常に手厚いケアを受けることができた。自分自身はただひたすら役に没頭したのみで、今回の受賞も、自分がどうのということではなく、周りの皆さんのお陰であり、また、加藤先輩の天からのプレゼントだと思っている。」と非常に謙虚でした。直接この話をご本人から聞いた私の感想は、単なる謙遜の言葉ではなく、ご本人の本心なのだと強く感じました。坂部さんは、人間的にも素晴らしい方でした。
坂部さんの所属される文学座と私共「アーラ」は、次年度も地域拠点契約を継続し、質の高い演劇公演はもとより、演劇ワークショップや朗読会、演劇講座の開催など市民との交流についても、より深めていこうと考えております。
今回の受賞を機に、坂部さんには、おそらく更に忙しい役者生活が待っていることと思いますが、一層のご活躍とご健勝をお祈りしております。