第58回 「男女雇用機会均等法」制定30年に寄せて

2015年5月29日

可児市文化創造センターala 事務局長 山口和己

アーラに来て早1か月半が経過いたしました。土日勤務、平日が週休日というシフト勤務にもやっと少し慣れ、頭の中で混乱していた曜日感覚も徐々に戻ってきました。まだまだ職場に慣れていないことは否定できませんが、少しは雰囲気を掴めるようになったかなと思います。

去る5月5日、爽やかなそよ風を店内いっぱいに招くように、オープンデッキからの延長構造となっている窓ガラスを全開にしたカテリーナ・ディ・アーラで一人昼食をとりました。店内からは「水と緑の広場」が一望でき、5月のやさしい日差し、目に心地よく染みてくる木々の緑、そしてその木陰には友達同士やカップルなどが語らい、私の視覚の届く範囲には、とても穏やかな時間が流れていました。ランチをオーダーして待っている間、なんて贅沢なランチタイムなのだろうと思い、つい、まだ顔見知り程度にしかなっていない店員さんに声をかけました。「季節も天気も景色や雰囲気も最高ですねー!」すると、「これがこのアーラ、このレストランのいいところです。特にこの席は特等席ですよ。ごゆっくりどうぞ!」と返事が返ってきた。休憩時間といえども、職場においてこんなにリラックスできたことがこれまであっただろうか。などと余計な方向に思
いが飛びそうになるのを遮断して、そのひとときを堪能させていただきました。

さて、その私の職場ですが、かつて過去の事務局長がこのアーラで働く人たちは多種多様であると紹介していたかと思いますが、私の席のある事務所には、インフォメーションを含めると27人が席を構えています。そして、そのうち約半数の13名が女性です。
折しも今年2015年は、「男女雇用機会均等法」が制定されて30年目に当たることから、今回は、私なりの男女共同参画社会について考えてみようと思います。

男女雇用機会均等法」が制定されて30年が経過したということですが、その実効性は十分に発揮されていないのが現状です。これは、元々、政府が国連「女子差別撤廃条例」の批准達成のために、労使の妥協を取り付けたうえで制定したもので、本来の「ジェンダー平等」理念に基づいたものではなかったことに起因するとの考え方もあるようです。

同均等法は1997年に一部改正が行われ、女性に対する差別を禁止し、原則として女性優遇も禁止されました。さらに2006年には、男性を含む性差別禁止法へと改正され、現在に至っています。
しかし、これが家事・育児・介護などの責任を背負い、就労しても非正規でしか働けない大多数の女性と、均等法の恩恵を受けて、男性並みに正規労働者として働くことのできる少数の女性との格差がどんどん拡大し、社会的に弱い立場の女性たちの貧困化が深刻になってきているとも言われています。こうしたことから男女間の賃金格差も歴然と生じ、さらに根強く残る「男は仕事、女は家庭」という性別役割分担意識から、セクハラやマタハラと呼ばれる嫌がらせが蔓延することにもなってしまったのではないでしょうか。

確かに日本の女性と男性の現状を見てみると、女性には家事と育児の負担がのしかかり、仕事と家庭の両立が困難になり、第1子出産で約6割の女性が退職。一方、男性は「仕事」中心の人生を強いられ、会社人間、過労死、自殺などの結末が用意されている、といったところでしょうか。
さらに日本の子ども観は、「子どもは親のもの、親が育てるもの」として、私的なことに位置付けられるために支援制度が貧弱となっている。その上、「母性神話」「三歳児神話」などによって育児について、女性に比重が移っていく。という歴史的に繰り返されてきた役割分担から脱却できないでいるのです。

男女平等の先進国(ヨーロッパ)では、同一労働同一賃金による待遇の均等性が保たれ、柔軟な労働時間の転換制度が出来上がっています。すなわち、パートタイマーとフルタイマーは労働時間の違いだけで、オランダではパートタイマーのまま管理職になっている場合もあります。また、出産や育児でキャリアが中断、あるいはリタイアのないように、パート⇒フル⇒パートなどと転換しやすい環境になっています。
そして、こうした企業を支援すべく、保育サービスの充実は当然のことながら、父親しかとれない育児割り当て制度や男性の家事育児への参加が当然である、というくらいの社会の認識が出来上がっています。

日本の産前産後の休暇制度や育児休業制度は、これまで行政主導で進められてきており、官公庁が率先して制度化、実施化を進めてきました。しかし、経済界では、実質2年も3年も仕事ができないのでは、何等か別の方法で補わなければならないということになり、ここに非正規労働者を充てるなどの対策を講じざるを得ない状況になったという事情も仕方のないことのように思えます。

可児市の職員の場合、産前産後の休暇等について、妊娠中の通勤時間をずらすために日に1時間まで取得できる「通勤時間休暇」、妊娠中または出産後1年以内に保健指導・健康診査のために必要な期間認められる「保健指導・健康診査休暇」、6週間の「産前休暇」、8週間の「産後休暇」、生後1年未満の子の授乳のための1日2回の30分の「保育時間休暇」、小学校就学前の子の看護や予防接種、健診の付き添い1年に5日取得できる「子の看護休暇」が制度として保障されています。
男性にも、妻の出産の付き添い等で2日の範囲で日又は時間で取得する「配偶者出産休暇」。妻の産前産後の休暇中に、その子または小学校就学前の子に必要な育児のために取得できる「育児参加休暇」、これは5日の範囲内で日又は時間で取得できます。また、生後1年未満の子を育てる職員が当該子の保育を行う場合、妻が同休暇取得の場合、妻夫合計で1日2回30分間認められる「保育時間休暇」、小学校就学前の子の看護や予防接種、健診の付き添い等のための「子の看護休暇」も1年に5日が認められています。
また、男女ともに深夜勤務、時間外勤務の制限を受けることもできます。また、どちらにも育児休業制度が保障され、可児市では「可児市職員の育児休業等に関する条例」において、子が3歳に達するまでの間に休む「育児休業」、子が小学校就学の始期に達する前まで適用できる「育児短時間勤務」及び「部分休業」を選択できるようになっています。

以上の出産、子育てに係る配慮は可児市職員の福利厚生制度として設けられ、当財団についても準用されており、制度としては進んでいる方だと思われます。
ただ、民間でこれらの制度をフル活用して、かつ国内外の熾烈な競争に打ち勝っていくには、現実問題としてかなりの困難が予想されます。
実際に、当財団でも、前年度末に2人の女性が退職となりました。1名は結婚のため、1名は出産のためでした。おめでたい退職ではありますが、財団にとっては痛手といえます。

制度を整えても、社会全体の考え方や常に競争を強いられる資本主義の只中にあっては、一気に完全な男女共同参画社会の形成は困難かもしれません。
先進のヨーロッパも最初からこうなっていたわけではなさそうで、オランダを例にとると、12%の失業者が出たとき、思い切ったワークシェアを断行したことがきっかけでもあったようです。
我が国においては、できることなら大きな痛手を受けることなく、スムーズに移行できたらいいなと思っています。