第46回 アーラの「現在」、そして「未来=希望」に向かっての海図を広げる。
2009年4月13日
可児市文化創造センター館長兼劇場総監督 衛 紀生
平成20年度の「可児市 市民意識調査報告書」が出ました。アーラが、これからどのような海路をとるべきかの示唆に富んだ集計結果だと思いました。市政の満足度で「生涯学習や文化芸術に触れる機会」が「満足」と「まあ満足」を足して24.3%なのに対して、市政に対する重要度では46.1%と倍近い数値が出ました。アーラへの期待値が高いと判断してよいでしょう。身が引き締まる思いです。
ただ、次のようなことも読み取れます。可児市に「これからも住みたい理由」で「教育・文化・スポーツ施設が整っている」が2.7%で16位なのに対して、「住みたくない理由」では、「教育・文化・スポーツ施設が整っていない」が17.6%で第4位になっています。とくに40歳代、50歳代では、それぞれ31.3%、33.3%と飛びぬけて高いのです。また、この年齢層の方々は、趣味活動に「時間がなくて参加できない」でも63.4%、53.8%と上位2位までに入っています。「時間が取れない」、「仕事や子育てが忙しい」という事情で、この世代の方々は、アーラの活動に気が回らないというのが実情なのでしょう。一方では、この年齢層の市民がアーラを一番利用し、活用している統計数値も、私たちが平成17年に実施した「政策評価のための基礎調査」にはあります。また、「市民意識調査報告書」によれば、アーラの活動について、「市の魅力度向上に貢献している」(59%)、「市民が望む文化芸術が鑑賞できる」(53.1%)、「市民の文化芸術の創造・発表の機会を創出している」(67.7%) 、「市民のまちづくり活動に貢献している」(50.5%)という数値が出ています。まちの活力を担っている中心層であるこの年齢層の方々が二極化しているとも読み取れます。
しかし、一見すると「ねじれ現象」のように思えますが、私はここから、社会的地位もあり、忙しい時間を過ごしておられる40代、50代の市民の皆さんにアーラの活動が届いていない、そのような方々が例えアーラにいらっしゃれなくても、アーラの活動に共感いただける仕組みを編み出さなくてはならない、と感じました。文化芸術には関心が薄いとしても、ご自分の住んでいる可児市を誰にとっても住みやすい、明るく安全なまちにすることには、おそらく皆さんは強い関心をお持ちなのではないかと私は想像します。例え時間がなくても、お忙しくても、街を活性化する装置としてアーラが機能すれば、その活動を評価していただき、可児市に重要な社会機関として認知していただけるのではないかと考えています。
可児市文化創造センターでは、今年度から「文化芸術でまちを元気にする」事業を動かそうとしています。学校やフリースクールなどの教育機関、障害者や高齢者の福祉機関、長期入院者のいる医療機関、いろいろな外国人コミュニティへアーチストを派遣して、癒しの時間や仲間づくりの時を過ごしていただくアウトリーチ・プログラムを重点事業として立ち上げます。アーラがまちに飛び出すわけです。オルタナティブ・アーラ(もうひとつのアーラ)です。劇場というものは、基本的に待ち受け型です。劇場は建造物ですから、何処にでも動けるわけではありません。お客さまが訪れてくれることを「待つ」という機能しか持てません。ウエイティング・モード(待ち受け型)なのです。とろろが、「文化芸術でまちを元気にする」事業は、アーラにいらっしゃれない方々のところに、また何処にでもアーラを届けようという考え方です。いわば、届ける先に豊かな実りをもたらし、私たちも喜びという蜜をいただけるミツバチ型の活動をしようというのです。これはシーキング・モード(お出かけ型)の活動です。地域拠点契約を結んでいる新日本フィル、劇団文学座はもちろんのこと、『愛と地球と競売人』の演出をしてくれた黒田百合さんをはじめとするテン・シーズ(10seeds)の皆さん、阪神淡路大震災の時に被災者のもとにアウトリーチ・プログラムを展開して大活躍をした兵庫県立ピッコロ劇団の俳優たち、コミュニティ・ダンスの第一人者新井英夫さんなどが、市民の皆さんのところにアウトリーチします。この事業には、アーラ内で活動しているボランティア団体アーラ・クルーズも関わってもらいます。市役所の教育委員会、福祉課、いきいき長寿課などとも連携します。
「市民意識調査」によれば、今後、アーラに力を入れてほしい事業として第三位に「学校や福祉施設、医療施設など、文化以外の機関との連携を強化し、子どもや高齢者、障害のある方など、芸術と触れる機会の少ない人を対象とした事業を充実してほしい」(13.6%)が入り、「市民参加によるまちづくり活動の場として充実してほしい」(12.3%)と続いています。また、アーラが独自に実施した「政策評価のための基礎調査」でも、「子どもや高齢者、障害のある方など、芸術と触れる機会の少ない人を対象とした事業を充実してほしい」が市民要望の第三位(42%)に入っており、要望のトップの「有名な俳優や歌手や俳優の出演する公演を企画してほしい」(56.8%)と大差のない順位になっています。
さらに、市政に対する満足度では、「高齢者への福祉サービス」、「障害者(児)への支援」が、「満足」、「まあ満足」を足しても、それぞれ13%、8.7%と低率であるのに対して、市政の重要度を訊いた統計では、「高齢者への福祉サービス」と「障害者(児)への支援」への要望が、それぞれ75.4%、71.8%と極めて高い数値となっていて、満足度と重要度のあいだに大きな乖離があります。また、「まちづくりへの市民参加と支援策」の「満足度」は、「満足」、「まあ満足」を足して13.5%なのに対して、市政の「重要度」では「非常に重要」、「重要」が35.8%で、ここでも実際と要望のあいだに乖離があります。
そこでアーラでは、青少年や高齢者、障害者、長期入院者、外国人を対象にした「文化芸術でまちを元気にする」事業に、すべての市民が参加できる仕組みをつくろうと思っています。アーラのそのようなまちづくりの活動に賛意を感じていただける市民の皆さんに「黄色」で統一したグッズを購入いただいて、身に付けてもらおうと思うのです。「黄色」は希望の色です。小さな黄色いグッズを身につけることで、「まちづくり」への参加意思と、アーラの活動への共感を示していただく方法です。
アーラの仕事をお受けするのにしたがって可児市に移り住んで丸二年が過ぎました。単身の不便さはありますが、私は心通うこのまちが好きです。人間的なあたたかさと、人間的なサイズの可児を居心地の良いところと思っています。そのまちが「希望=黄色」で彩られたらどんなに素敵なことか、想像しただけでもワクワクします。そうなったら、人口十万人の小さなまちが、日本中に誇れるあたたかなまちになると信じています。文化芸術を通して、まちづくり、人づくり、人々のあたたかな関係づくりが出来れば、可児市は安心・安全、心豊かなまちとしてモデル地域にきっとなります。日本一の「こころ温かい」まちになります。壮大な計画ですが、ともかくも第一歩を踏み出そうと考えています。