第35回 連日のソウルド・アウトに感謝。

2008年11月23日

可児市文化創造センター館長兼劇場総監督 衛 紀生

ala Collectionシリーズの第一回制作作品『向日葵の柩』(作=柳美里 演出=金守珍)が11月28日(金)のソワレで初日を迎えることができました。10年以上前に上演されて、好評であったのに何らかの事情で再演されていないものを年に一本ずつリメイクして行こうというプロジェクトで、キャスト・スタッフには可児におよそ一ヵ月半滞在してもらって、可児公演、そして新国立劇場での東京公演のあと、翌年には全国公演という流れで進みます。キャスト・スタッフは、可児市民のお宅にホームステイしたり、一軒家を提供していただいて生活をしたり、作業のある人間は劇場近くのマンションから自転車で通ったりと、本当の意味の「地域発信」です。東京で創って、地域から発信という「まがいもの」ではありません。

初日こそ八割程度の入りでしたが、二日目から3日連続でソウルド・アウトとなっています。すでに1350枚のチケットが売れており、あと4ステージを残すところで残席が58席のみになっています。今日の5ステージ目もあと3席を残すのみとなっています。有り難いことです。やはり作品の力が圧倒的で1時間50分のあいだお客さまは身じろぎせず舞台に引き込まれています。啜り泣きが客席のあちこちから聞こえます。また、可児から東京・全国に発信すること、可児に滞在して製作していることへの可児市民の関心の高さが、このチケットの売れ行きになっていると思われます。

新国立劇場で6ステージは妥当との評価を周辺からもらえましたが、可児で8ステージには、さすがにアーラ内部では不安視する向きもありました。しかし、この作品の力と金さんの演出手法を考えたら、はじめは少ないお客様かもしれないが、絶対にクチコミが拡がっていく舞台であるとの確信が私にはありました。

同じプロデュースの考え方を採用したことがあります。4年前に金沢市民芸術村で、アーラでも上演された『おーい幾多郎』の再演をしたときのことでした。地域では考えられない初演の翌年に再演という、いささか無謀ともみえる挑戦でした。今回を上まわる13ステージという公演数でした。案の定、三日目までは60人前後の観客数でしたが、最後の6ステージは完売で、立ち見もでる盛況となりました。この時も、この舞台はお客さまの心を揺さぶる舞台との確信があり、したがってクチコミが絶対に拡がると考えたのです。自主制作であるから、公演数を増やしても舞台美術や衣装等の固定費に変わりはなく、若干の変動費が増加するだけですから、ステージ数を増やしてもそれほどの制作費の膨らみはない。ならばステージ数を増やしてクチコミを拡げることを考えた方がよいとの判断です。

『向日葵の柩』も同じ思考をとりました。単純に考えると、人口10万人の町で1300人以上のお客さまに観ていただけるということは、2500万を超える東京圏のマーケットに換算するとおよそ「34万人」の観客数になります。「無謀な」8ステージ公演は成功でした。大変な数のお客さまに『向日葵の柩』は観ていただいているわけです。むろん、そのマーケティングを展開してくれた職員たちの労苦の成果です。アーラ開館以来の1事業あたりの観客動員をすでに350名以上うわまわっています。これは私たちにとっても「事件」です。

ala Collectionシリーズは良い滑り出しをさせていただきました。普段は芝居を観ることはないだろうと思われる老夫婦が、終演後に、「ありがとう」と深々と頭を下げてくださる。有り難いことです。劇場で働く者にとって、これほどの喜びはありません。

公演三日目には、18年ほど前だったと記憶していますが、扶桑文化会館のオープン前、まだ基礎工事しかできていない頃に扶桑にワークショップに伺ったことがありまして、その折の責任者の今枝さんが来てくださいました。観劇後に大変なお褒めをいただきました。「アーラは変わりましたねぇ。もう一度、私も文化会館で仕事をしようと思っている。ファイトが出ました。アーラを追いかけます、追いつけるかどうか分かりませんが」と言ってくださいました。いろいろな方に、すべてのお客さまに、そしてこの無謀とも見えるプロジェクトを承認して支えてくれたすべての職員に、感謝したいと思っています。