Special 祈りのコンサート2020 インタビュー:西江辰郎、森浩司、長谷川彰子
コロナ禍で昨年は中止となった「祈りのコンサート」が、当初予定したメンバーでリニューアルが完了したアーラに戻って来る。震災から10年目の節目を迎えて気持ちも新たに、魅惑のアンサンブルが名曲たちを奏でます。
復興への願いをトリオ演奏にのせて…10年目の節目を迎える「祈りのコンサート」
西江辰郎 (ヴァイオリン:新日本フィルハーモニー交響楽団・コンサートマスター)
森浩司(ピアノ)
長谷川彰子(チェロ:新日本フィル・主席チェロ奏者)
― 1年の延期を経ての開催ですが「東日本大震災の復興・支援」というテーマは変わりませんね。2020年はコロナ禍で公演の中止が相次ぎ、演奏家として辛い時期もあったかとお察しします。そんな皆さんのいろんな思いが、今回のメイン・プログラムであるチャイコフスキーの大曲、ピアノ三重奏曲に結実するのではないでしょうか。
【西江】そうですね、とても考えさせられ、また忍耐を必要とした1年でした。もちろんそんな中から新しく取り組むことの出来たことも沢山あるのですが。チャイコフスキーのこの作品は私にとっても特別です。「偉大な芸術家の思い出に」という献辞、音楽的に込められたメッセージは当時から鮮烈だったのでしょう。その後のロシアのピアノ三重奏曲への影響は見逃せません。故人を悼むような雰囲気の第1楽章と、楽しかった思い出を懐かしむかのような第2楽章の対比、特に後者は長大で変化に富んだヴァリエーション(変奏曲)となっているので奏者にも構成のバランスや様々な表現力が要求されます。
【森】ピアノ奏者としてもやはり、あらゆるチャイコフスキー作品のなかで、最も至難で高度な演奏技巧が要求される第2楽章に尽きますね。親友であり、まさに「偉大な」ピアニストであった故人ニコライ・ルビンシテインに対する敬意から、チャイコフスキーが考えるピアニスティックなテクニックがこれでもかと詰め込まれていて、1年前は弾くだけで精一杯でした。でもその後、幸いなことに(…とは言えませんが)この作品と向き合う十分な時間が確保できたことで、ふたりの関係やチャイコフスキーの想いなどが見えてきて、より理解が深まった気がします。
【長谷川】私も、最初に練習を始めた頃は凄く高い山に登るような気持ちで本当にめまいがしていましたが、1年間という勉強の時間を与えられたことで、チェロ独奏のロマンティックな旋律にも、単に美しいだけではない深い意味を感じ取れるようになりました。そんな気持ちを会場で皆様と共有できたらいいなと思います。
― 今年も恒例のJ.S.バッハ〈G線上のアリア〉と黙祷は欠かせません。
【西江】これまでに何度も演奏してきた曲ですが、メンバーや環境によっても演奏は変わりますし、新たな気持ちで向かい合いたいと思います。
【長谷川】アンコール・ピースとして演奏することが多く、細かいリハーサルをして臨んだことがあまりないので、いつも通奏低音をちゃんと弾けたかどうか自分でも自信が持てなくなるので、今度こそしっかり取り組みたい。どうかご期待ください!
【森】ピアノが参加することは難しいかもしれませんが、編曲担当の佐野秀典さんにぜひ、トリオ版を書いていただきたいです!
― NHK大河ドラマ《麒麟がくる》のテーマ(ジョン・グラム作曲)も演奏予定とか。昨年の3月だと、ちょうど可児市あたりが物語の舞台だったのに残念でしたね。
【森】うちの父が熱心に観ていたので、自分も岐阜のあのあたりが出てくるな、と思いながら一緒に。
【長谷川】私もしっかり観ていました。実は明智光秀を演じる主役の長谷川博己さんって、西江さんに雰囲気が少し似ているかも…(笑)。
― 2011年の東日本大震災から10年が経とうとしています。
【西江】私は仙台フィルに5年間在籍したので、東日本大震災は他人事ではありませんでした。 あれから10年の月日が流れたわけですが、可児市の皆さんがあの日をずっと忘れないで「祈りのコンサート」を継続していらっしゃるのは素晴らしいことだと思います。
― では最後にひとことメッセージをお願いします。
【長谷川】昨年楽しみにしてくださった皆さん、お待たせしました! 感染症の予防対策には万全を期して開催しますので、足を運んでいただけたら嬉しいです。
【森】何度も呼んでいただいてありがとうございます。おかげさまで、客席を眺めているとお馴染みの顔が浮かぶようにもなりました。また皆さんにお会いできるのを、今回ほど待ち遠しいと思ったことはありません。アーラでお待ちしています。
【西江】この素晴らしいメンバーと一緒に演奏させて頂ける機会に感謝したいです! 会場で素敵な時間を皆様と共有できますように。コロナの終息を心から祈っています。それまでお元気で!
取材/東端哲也 撮影/尾崎隼 協力/フリーペーパーMEG