第35回 事務局長のひとりごと(3)~「5分遅れ」は本当に親切な対応なのか~
2013年6月12日
可児市文化創造センターala 事務局長 桜井孝治
「そっ啄同時」(そったくどうじ)という言葉があります。(「そつ」は口偏に卒)元々は禅の言葉らしいのですが、卵の中のヒナ鳥が殻を破ってまさに生まれようとする時、卵の殻を内側から雛がコツコツとつつくことを”そつ”、ちょうどそのタイミングで外側から親鳥が殻をコツコツつつくのを”啄(たく)”というのだそうです。そのタイミングがぴったり合ったときに雛は初めて生まれることができます。一瞬でも遅れたり早まったりするとヒナの命が危ない、それだけ大事なタイミングという意味です。「阿吽(あうん)の呼吸」とでも言うのでしょうか、相手との微妙な気持ちの一致を表します。
私はスポーツ観戦の中でも特にバレーボールを観るのが好きなんですが、その理由のひとつとして速攻が決まった時の爽快感がたまらないことがあります。サインプレーやアイコンタクトでセッターとスパイカーの気持ちが瞬時につながると、観ているこちらまでスカッとするのです。また試合の大事な局面で相手チームに攻撃パターンを読まれていても敢えてスーパーエースにトスを上げる、これも人間関係を象徴するシーンです。”お前に任せた”と正攻法で高いトスを上げるセッター、託されたエースはそれを意気に感じて強打でブロックをはじきとばして決めていく。絶対的エースの存在の誇示とチームの一体感の醸成・・バレーっていいなあ。
アーラ勤務になってからは土・日曜日は原則として勤務日になっているので観戦する機会は代休が取れた時くらいですが、必ずしもVリーグのような本格的な試合でなくても、大きな体育館の雑踏のなかで高校生や社会人の大会を観ていると結構元気になってきます。魅力あるチームは試合前の公式練習で解ります。靴底が床と摩擦するキュッという音やスパイクを次々と打ちつける音にリズムがあるのです。バレーボール好きな人がこの建物の中にこんなに集まっていると考えると嬉しくなってきます。我ながら安上がりな趣味だと感心しますが。
ちなみにプレーする方については、自分のイメージしているジャンプ力と実際に地面から離れている高さにかなりの乖離が出てきたため、不本意ながら柔らかいボールを使ったレクレーションバレーに転じています。今でも週3回仕事が終わった後に地元の公民館や小学校の体育館で和気あいあいと楽しみます。3つのグループに属していますが、そのうちリーグ戦へ参加するチームのメンバーとはもう10年以上付き合っているので、セッターとは「阿吽の呼吸」ができています。たとえレシーブが乱れても必ずトスが来ると信じてポジショニングする自分がいます。今年からはそれに加え週1回のバドミントンも始めました。そのため朝から昼間にかけては絶えず疲れ切っていますが、夕方になるとなぜか元気が出てくるのが不思議です。
さて、これまで長く市役所勤めをしていると会議や説明会等を開催したり、逆に出席したりする立場になることも多いのですが、この時気になるのが開始時間間際での「まだ集まりが悪いようですので、もう5分待つことにします。」というアナウンス。職場だけでなく、地元の集まりでも同様の傾向は少なからず見受けられます。
この「もう少し待つ」という行為は本当に親切な対応なのでしょうか。一見事務局として配慮というか気配りをしていることをアピールできますが、キチンと時間を守って定刻までに着席している人への誠意がそこにあるのか疑問です。参加者にはそれぞれ事情があるはずですが、それでも万障繰り合わせて決められた時間までに席に座っているのです。どちらを優先させるべきかは自ずと決まってくるはずです。会議や説明会等は余程の事情が無い限り、定刻に始めるべきと私は考えます。出だしのスタートがこんな状況で遅れるようでは、その後に続く内容も推して知るべしです。私はこの「5分遅れ」を良しとする会議等には期待することはありません。
同様に「市民ニーズ」を多用する文書や、「努める」とか「適正」が多いものも同様です。「モータリゼーション」が出てくる計画書等はそれだけで続きを読む気にはなれません。今時そんな言葉使います?
しかし今の職場で1年間過ごしてきて、少し考え直すことが出てきました。それは人が多く集まるホールでの公演時、駐車場が満車になったことに起因する遅れて到着されるお客様への対応です。アーラについては近隣の施設に比べると駐車可能台数は格段に多いのですが、それでも437台分です。隣接する公共施設の駐車場と相互利用が可能なので、そうすれば最大あと130台分は確保できますが、これは隣接施設で何も行事が入っていないことが前提なので最初から当てにすることはできません。時間に余裕を持って来館されても、駐車スペースを敷地内で見つけることができないと、かなり時間をロスします。やっとの思いで車を停めてホールまで向かうと、どんなに急いでも定刻に間に合わない状況が発生します。
前述の”定刻開始論”からすれば遅れてみえた方を待つことなく公演を始めることとなる訳ですが、この方たちはその後どこかのタイミングで入場いただくことになります。こういうケースも想定して事前に主催者の方とは打合わせをしていますが、例えばクラシック音楽の場合はどの曲間や楽章間で入って頂くかを決めてあります。演劇等の公演でも開演後しばらく区切りのいいところまで入場制限をかける場合があります。2~3分遅れて来たお客様は一刻でも早く会場内に入りたいに決まっています。車がスムーズに駐車出来れば間に合ったからです。そのことは十分理解できます。一方で途中入場には少なからず音が出ますし、閉鎖されて日常の空間とは遮断された会場内の張り詰めた緊張感が、扉を開けることによって乱れてしまいます。舞台の上の出演者から見ても、ホールの扉は見えているので、開閉により集中力が削がれてしまいます。1回でも気になるのに、開演後5分後に1回、そのすぐ後にもう1回というように続いては、開演時刻までに到着して客席で静かに公演を楽しんでいる方にとってみれば不愉快にならざるをえません。
これらのことを考慮すると、ホールでの公演時に限っては途中入場の回数をできるだけ回避することを目的にした「5分遅れ」は選択肢としてありかなと考えます。遅れて入場する場合でも、事前に座席表で座る位置を確認した後に入るとか、出演者の視野に入りにくい扉から誘導を行うなどの配慮が必要です。杓子定規に定刻開演を適用してその後大勢の皆さんが不愉快な思いをするよりは、既に会場内に入られているお客様にはご迷惑をおかけしますが、途中入場による緊張感の分断を避けるため、これから始まるワクワク感を広い心でもう少し楽しんで頂けると幸いです。でもくれぐれも時間には余裕を持ってお出かけ下さいませ。