第29回 シネマについて思うこと~備忘録を整理して(洋画編)~

2012年12月8日

可児市文化創造センターala 事務局長 桜井孝治

アーラ勤務も8ケ月が経ちました。この間、視察のため来館された方は北は北海道岩見沢から南は九州の久留米や宮崎まで32件、四国からは香川・愛媛・徳島の各県から来ていただきました。一方この間私が出向いた会館やホールは数少ないですが、東京のサントリーホールや吉祥寺シアター、金沢の北國新聞赤羽ホール、愛知県芸術劇場コンサートホールの雰囲気を味わう機会を得ています。

10月には愛知県の長久手市文化の家を訪れました。ここは設計者がアーラと同じということもあるせいか、建物内に入っても違和感がなく、ホールの座席に座っていると居心地が大変いいです。昨年アーラコレクションシリーズでお世話になった平幹二朗さんが出演された舞台があったので、芝居を観せていただき、その後、楽屋におじゃましました。ちなみに隣の楽屋は佐々木蔵之介さん、長身で素敵な役者さんです。蔵之介さんはアーラ開館の年に永井愛さんの「新・明暗」で小劇場の舞台に立っていただいています。

先月には劇団四季の「アイーダ 愛に生きた王女」を観てきました。場所は名古屋にある劇団四季の専用劇場「新名古屋ミュージカル劇場」、公演期間中は常設の劇場です。大規模な初期投資はかかるでしょうが、専用の緞帳、大道具、照明器具、音響設備を備えています。毎日の仕込みやバラしは不要です。劇場入口ではチケットに記載されたQRコードをシステムにかざすとそこで入場の可否を判断します。半券をもぎることはしません。入場可と判断されるとゲートの先に一枚の紙片が出てくるので、それを受け取ります。そこには自分の座る席の大まかな位置図と、どの扉を入っていくと最短で到着するのかのルート図が印刷してあります。
この劇場では以前「ウィキッド」「オペラ座の怪人」「ライオンキング」を観覧しました。その前には名古屋駅南の笹島会場で「キャッツ」を観ましたが、今年は明らかに自分の観る視点が違うことに気が付きます。まずは会場の座席の埋まり具合や来場者の年齢層はどうなっているのか、フロントスタッフの注意喚起のタイミングや言葉使いはどうか。声かけをする際はキチンと膝を折って話かける訳ですが、なるほどあの言い方ならお客様も気分を害されないと感心します。舞台の幕が上がった後は、開演後に遅れてみえた方の誘導方法、舞台照明の絶妙な作り方、スモークの効果、頻繁に行われる素早い舞台転換、舞台美術の素晴らしさ、限られたキャストが何役もこなす衣裳の早変わり。休憩時間の来場者の過ごし方、女性トイレに並ぶ列の長さ、最後にはアンコールの登場の仕方のバリエーションやら客席の明かりを点けるタイミング・・公共施設とは単純に比較できませんが、参考になることいっぱいでした。

さて、先月に引き続き今回は洋画を何本か紹介します。一部ネタバレの部分がありますので未見の方はご注意を。洋画についてはロイ・シャイダー主演の「ブルーサンダー」(1982年)から鑑賞歴が始まりました。30年前のことですが”これがハードボイルドだ”と何故か衝撃を受けたことを思い出します。
「48時間」(1982年)
刑務所に服役中のやんちゃな若造と年配の強引な単細胞刑事が、悪党を追うという共通の目的のために2日間だけコンビを組む。互いに意地を張り合いながら、やがてハミ出し者同士の共感から結ばれていくバディムービー。刑事ものでこの手の設定は数多くあるのですが、エディ・マーフィの映画デビューは鮮烈であり印象に強く残っています。次の「ビバリーヒルズ・コップ」も痛快でしたが、その後彼本来のコメディアン路線に戻ってしまったことが残念。
ちなみに”○○時間”というタイトルはよく使われますが、後で振り返ると内容が思い出せません。副題を付けるべきです。

「キリング・フィールド」(1984年)
後にピューリッツァー賞を受賞したアメリカ人ジャーナリストと、その通訳で現地の新聞記者がカンボジア内戦を取材したもの。現地人を演じる脇役が完全に主役を喰っている。2人が別れてからの運命は天と地ほどの開きあり。帰国し脚光を浴びるアメリカ人と、現地でその後も生と死の狭間をさまよい続ける元通訳。予告編で結末に2人が再会することと、そこで流れる音楽がジョンレノンの「イマジン」であることが既に判っているのに、監督の思惑どおりに涙腺が緩んでしまう。あの時カーラジオが鳴っていた車は白色のクラウンではなかったか。

「セブン」(1995年)
「七つの大罪」をモチーフにした連続猟奇殺人事件と、その事件を追う刑事たちの姿を描いたサイコ・サスペンス。監督のデヴィッド・フィンチャーは33歳の時にこの作品を撮ったことになります。よく練られた脚本を基に、モーガン・フリーマンが見事に演じています。本当に後味が悪い映画ですが、その分強い印象で記憶に残っています。後味の悪さではアンソニー・ホプキンス出演の「羊たちの沈黙」も引けを取りません。このモーガン・フリーマン、アメリカ大統領から街のチンピラまでどんな役でもこなす渋い役者です。
ちなみによく似たタイトルの「7つの贈り物」(2008年、主演:ウィル・スミス)は贖罪のため自殺を前提に自分の臓器を7人に提供するものですが、この作品も緻密な脚本でこちらは感動的な作品に仕上げています。

「ディープ・インパクト」(1998年)
巨大彗星衝突による地球最後の日の人間模様を描いたパニック映画。隕石が地球に落ち人類は滅亡する。そんな現実を突きつけられた時人々はどう生きるのか。極限に追い詰められた時に人間の本性が正に剥き出しになります。避難シェルターに入るクジの抽選に洩れた子持ちの友人に自分の当たりクジを譲ることがあなたにはできますか?仲違いした父親と想い出の地で最後を迎えることを決意した娘。これから自爆する宇宙船からの最後の通信で、地上にいる奥さんと生まれたばかりの子どもに話かける乗組員・・。女性監督のミミ・レダー作品。

「ライフ・イズ・ビューティフル」(1998年)
ユダヤ人迫害がテーマ。前半と後半でガラっと作風が変わります。本当に見事に変わります。後半では絶望と死の恐怖がたちこめる収容所で、幼い息子を怯えさせまいと必死の嘘をつき通す父親。自分の生命も危ない状況で作り笑顔で子どものために身を捧げる父と、そんな父を信じる子供の純真さ、また夫を信じる妻の従順さ。楽観的に見せながら家族をどんな過酷な状況でも守り抜こうとする家族愛が心を打ちます。監督・主演はロベルト・ベニーニ。

「グリーンマイル」(1999年)
グリーンマイルは死刑場へ歩むカーペットの色に由来しています。大恐慌時代のアメリカ南部の刑務所に少女殺害の罪で大男が収監された。死刑囚舎房の看守主任(トム・ハンクス)は、外見とは裏腹に純粋な心を持ち不思議な力を持つこの男が本当に罪を犯したのか疑問を持ち始める。キーマンとなる大男にはマイケル・クラーク・ダンカンを配役。映画ではかなり大きな人物に映るよう工夫がされていたのではないか。事件の真相の伝え方とその解決方法は見事です。

「海の上のピアニスト」(1999年)
豪華客船の上で生まれ育ち、一度も船を降りなかった天才ピアニストの一生を描くもの。天性の感性でピアノを弾く彼とジャズの大御所との壮絶なピアノバトルは最大の見せ場。挑発を受けた彼が演奏前にピアノの上に1本の煙草を置き演奏開始。あまりの熱演のため熱を帯びて赤くなっているピアノ線で最後煙草に火をつけ紫煙を燻らせる。炭酸の強い飲料水を飲んだ時のような唸り声をあげてしまうこと間違いなし。主演のティム・ロスはTVシリーズ「ライ・トゥ・ミー」シリーズでも深層心理を暴く表情分析アナリスト役を見事に演じています。

最近観たスピルバーグ監督の「戦火の馬」(2012年)も、第一次世界大戦下を生き抜いた一頭の馬を主軸にした重厚な大作ドラマでした。少し前に公開されたディカプリオ主演の「ブラッド・ダイヤモンド」(2006年)同様、今後時間が経っても記憶に残っていくに違いありません。
作品問わず、役者で観るのは男優では「デンゼル・ワシントン」、悪役から善い人まで何でもできます。また女優では「クリスティン・スコット・トーマス」、知的で気丈な女性を演じたらピカイチ。最近では「きみに読む物語」で脚光を浴び「ドライヴ」「スーパー・チューズデイ」で存在を確かなものとした「ライアン・ゴズリング」がとても楽しみな存在です。穏やかな雰囲気、涼しげな表情で魅力的、時にはバイオレンスアクションも観せてくれます。「メリル・ストリープ」「ロバート・デニーロ」は誰もが認める正統派俳優であるのに、何故時々おちゃらけた映画に出演するのか疑問で仕方がありません。

また何事にも共通することですが、物事にはセンスの善し悪しが付きものです。洋画に関しては”邦題”の付け方にそれが現れます。時には関係者の圧力があるのでしょうが「なるほど~」と唸ってしまうものから首をかしげるものまであります。一見結び付かない原題と邦題が、観終わった時に大きく頷けるような作品に出合うとうれしくなります。
例を2つ3つ。病室で知り合った余命半年の末期ガンの2人が冒険の旅に出る「The Bucket List」(棺桶に入るまでにやっておくリスト)→「最高の人生の見つけ方」、戦地で愛する人をなくした老女と指輪を描く「Closing the Ring」→「あの日の指輪を待つきみへ」、長年眠り続けた精神病患者が若き医師の治療で一時的に回復する「Awakenings」→「レナードの朝」、変わったところでは不倫に溺れ家庭崩壊の一途を辿ってしまう主婦を描く「We Don’t Live Here Anymore」→「夫以外の選択肢」などなど。

以上、2回にわたって邦・洋合わせて何本かご紹介しました。まだまだお伝えしたいものはありますが、こうやってみていくと、逆に初対面の人にはその人の好きな映画を何本か教えていただければ性格判断ができそうな気がしてきました。近隣にお住まいの方ならばそれに加えて気に入っているコーヒーショップを数店教えていただければ、その人の人物像がある程度掴め、自分と話が合うかどうかも解るのではないかとカフェマニアの私は考えます。さすがにカフェを文化と結び付けるのはこのコーナーでは拡大解釈ですので、お気に入りのカフェについては個別にお話しすることとします。