第7回 「劇場法」(仮称)を地域にいて考えると(その2)
2011年8月1日
可児市文化創造センターala 事務局長 篭橋義朗
劇場法(仮称)を検討するにあたっては「文化芸術振興基本法」の基本理念から出発しなければならないと思います。第2条にある基本理念は文化芸術活動を行う者の自主性のと創造性を尊重し、国民が等しく関われる環境を整備する、とあり、広く国民の意見が反映されることが謳われています。その理念を文化芸術の一分野としての「劇場・ホール」をはじめて規定するものであることを考えるとやはり衛館長が提唱する「舞台芸術拠点による社会包摂の推進」に行き着きます。引用すると長くなりますので是非とも館長エッセイを読んでください。
前回、「劇場法」(仮称)について書いた後で芸団協の調査研究を改めて読んでみました。衛館長が「業界内改革」と評すると同じように私も感じました。法律ともなれば全国民に影響が出るものであることを考えると慎重な検討をされることを望んでいます。この芸団協の調査研究を読んでいて私が感じたことは舞台芸術団体が良好な舞台環境で作品を提供していけば間接的に社会・国民の貴重な財産となり、豊かな社会に貢献する、と読めます。あくまでも「間接的に」です。そこには「舞台芸術団体は作品を提供する側、市民は享受する側」という構図が前提となっているのではないでしょうか。でもこれはあまりにも時代錯誤の認識だと思います。市民参加で劇場・ホールを建設し、市民参加で運営をする今の全国の潮流からは、ずれています。
可児市文化創造センター・アーラの運営を芸団協の劇場分類(創る劇場、観る劇場、コミュニティーアーツセンター、集会施設)を念頭にして考えると以下のようになり、その分類を受け入れることができなくなります。
アーラはアーラコレクションシリーズ事業として毎年1本ずつ舞台作品を制作公演しています。今年度は「エレジー」演出:西川信廣、主演:平幹二郎で制作します。しかも市民参加を取り入れて・・・。9月から稽古を開始し、10月からアーラ小劇場で8公演、その後東京吉祥寺シアターで7公演、全国各地で8か所、11公演を行います。これは「創る劇場」の見本のようなものです。「観る劇場」としては今年度も新日本フィルや、文学座公演、落語、ポップス、JAZZ、映画などの20事業を計画しており市民の皆様に質の高い舞台芸術を鑑賞していただきます。「コミュニティーアーツセンター」については”アーラまち元気プロジェクト”として100人を超える市民参加舞台作品の制作公演や多文化共生パフォーマンスの制作公演、アウトリーチで高齢者施設、身障者施設、病院、公民館、小中学校などに新日本フィルのメンバーや文学座の俳優などを派遣しています。また市民芸術団体の利用も非常に多く、1年後までの土日はほぼ100%の稼働率です。「集会施設」としては行政関係のイベント、講演会、研修会、地元企業の研修会等でその調整に困っている状態です。これは衛館長の当初の劇場運営方針である、
時代・地域と共生する全国レベル、世界水準の舞台芸術の鑑賞機会の提供
劇場をナショナルブランドすることを目途する高水準の舞台芸術の自主制作
行ってみたい、住んでみたい、住んでよかったと言われるコミュニティプログラムの提供
芸術文化に関わり、その成果を享受し、あるいは創造する可児市民の生まれながらの権利を保障する
地域社会と連携し、文化芸術を通して明日の可児市の「希望」を形成することに寄与する
以上は等価であり、職員は、以上のために可能な限りサービスを創意工夫する責務を持つ
というアーラのミッションがそのまま我々の行動原理として進行中であることの結果です。
アーラは2つの劇場と多くの練習施設をプロフェッショナルとアマチュアと行政とがすべての事業に深く関連し、助け合いながら渾然一体となって運営されていますので、劇場のスタイルの区別はアーラにおいては不能となります。「等価」ですから。芸団協の調査研究から劇場法(仮称)を導くとスタイルの区別によって国の関与、支援のあり方まで規定され色分けされるのではないかと思いますが、納税者であり、享受者であり、創造者である可児市民としては、固定的になると予想される劇場スタイルの区別に納得がいきません。文化庁等の補助制度で政策を表現すれば十分であると思います。
私たち、公立文化施設を運営する者にとって最も重要なことは、文化芸術振興基本法で示された地方公共団体の責務とされたことに加えて、さらに劇場法(仮称)で劇場・ホールが国民生活全般にわたって必要なものであることを謳っていただくことです。
芸団協の調査報告では「文化芸術が優先的に使用できない。」こと、「地方自治法による公の施設としての制約で長期にわたる独占的な使用ができない。」ことが強調されますが、これは市町村立の劇場・ホールの設置条例まで調査すればそうではないことが理解できるのではないでしょうか。可児市でいえば地方自治法上の「公の施設」の規定を受けて可児市条例では「可児市文化創造センターの設置及び管理に関する条例」第2条で心豊かな地域文化の創造と振興に寄与するためアーラを設置したと記述してあります。第5条のアーラでするべき業務は【1】文化芸術事業の企画及び実施並びに市民の文化芸術活動の支援、【2】【3】施設及び備品の貸し出し、及び維持管理、【4】設置目的(心豊かな地域文化の創造と振興に寄与する)を達成するために必要な業務、と規定されています。ちなみに使用の制限は第9条で公序良俗を乱し、施設設備備品を壊し、暴力的不法行為などのおそれがあるとき、また運営上の支障があり、設置目的に反するものと規定されております。以上のことを念頭に財団内で利用調整会議を開催して利用調整しています。具体的には財団自主事業と市民文化芸術振興団体、一般の行政目的事業・イベントを優先して調整しています。したがって可児市では文化芸術が優先されない、ということはありません。全国的にも最近は機械的な抽選とか、先着順というのは少なくなってきているのではないでしょうか。
「長期使用」についてはアーラでは10日間の連続使用が可能です。さらに財団が認める者であれば借りることができます。このような制度はなにもアーラだけではなく他の施設でも類似の制度はあると思いますが。ただしオープン以来そのような申し込みは一件もありません。例外は練習ロフトで教育委員会委託事業の「可児市美術展」、「可児市文芸祭」、」財団自主事業の「展覧会」だけです。2つの劇場では例がありません。しかしもし東京周辺の舞台実演団体が1カ月間の練習施設や舞台を使用するために申請が出されたことを想定すると、可児市民との関係性、財団活動との関係性、公益性を検討させていただきます。そのうえで競合団体との比較をした結果で判断しますが、かなり厳しいものになると思います。
芸団協の調査報告では「近年では、地方自治体の合併により、複数の文化施設が存在し、一部を廃館にしたり、財政悪化により文化施設の事業予算を中心に運営予算が削減される地域も多数出始めている。」と指摘していますが、厳しい財政状況の中でそれでも市町村には住民の福祉向上のために創意工夫していくことが求められています。そのうえで文化芸術予算を継続的に確保していくには市民の支持を集め、必要とされる施設になることしか道はないものと思います。その論理と国の姿勢を劇場法(仮称)に書いていただきたいと思います。
ここまで書いてきて思うことは結局は劇場法によっていかに実演団体が使いやすい劇場ができようとそれを鑑賞する住民、応援する住民がいなければ何の振興にもならない、ということです。制作集団に優先順位を与えることは新たな不満を発生させるだけです。オーナーである市民に芸術至上主義的な運営を説明することはできません。